王様の耳はロバの耳

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ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』感想メモ

ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』を観ました。
「ずっと山場だな!!!!!」と思いながら観てたら最後エベレスト級の山場が来てのけぞりました。



以下、取り急ぎ忘れないうちに、感想のメモ書きです。
箇条書きなので見にくくてすみません。
ネタバレはなるべくしないように気をつけたつもりなんですが、うっかりしてしまっていたらすみません…



※Wキャストの組み合わせは下記の通り。
・ダニエル:木村達成さん
・アンダーソン:加藤和樹さん
・ジャック:堂珍嘉邦さん









加藤和樹さんのアンダーソンは、「汚れつちまつた悲しみに」だなあと…
湿度が低く乾いていて、目に見えない渇望が感じられる。色気の権化みたいになってるのに全然いやらしくないのが本当に素敵だと思いました。とにかくかっこいい。「こん中に和樹アンダーソンかっこよくないと思う奴いる?いねえよなあ!!?」って思った。
あと火が似合う。



・加藤アンダーソンに対して、木村達成さんのダニエルは「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」の白鳥を思い起こさせました。いや、そんな話じゃ全然ないんだけどね…!!
ピュアで、真っ直ぐで、己の使命を全うしようとする。その白鳥は果たして純潔であったか?



・田代万里生さんのモンローは、小悪党ぶりが見事で…!!アンダーソンって単体で見ると梃子でも動かなそうなのに、モンローの調子の良さにのせられちゃうのすごくわかる。
歌もお芝居もたくさんの選択肢を用意できてその中から的確に選んで実現する実力があるからこそ、こんなドンピシャを射抜けるのだろうなあ…と感動しました。
あと蝶ネクタイをつけたウサギさんみたいでかわいい。



・前半の木村ダニエルは汚い大人(万里生モンロー)(誉めてる)と汚れた大人(和樹アンダーソン)(誉めてる)に囲まれてしまった赤ちゃんなんですよ……光だけを武器にして戦おうとしてる赤ちゃん。赤ちゃんって、大人に対してある意味で強いじゃないですか。その強さに近いものを木村ダニエルが持ってて、3人が並ぶとその役のバランスに役者さんたちの力量や強み、声のバランスが絡み合ってすごくいいんですよね…!ナイスキャスティングだなあと思いました。
そしてその印象を残したまま縺れ込む二幕が最高。



堂珍嘉邦さんのジャックは、『不思議の国のアリス』の地の文を読んでいる時に出てくるジョン・テニエルの挿絵っぽくて、現れると異質で、飄々としていて、どこか風刺的で、それでいてロック。
かっこいいんだこれがまた!!痺れるよね…でも二幕の帽子ちょっと可愛くてそれも好きなんですよね…



・May'nさんのグロリアは…うう…切ない。木村ダニエルの目に宿る光は彼女そのものだなあと…なんかこう、ダニエルの目に映る肖像としての佇まいの説得力がすこいんですよ…!!ふたりとも光の人なんだけど、ふと気づくとダニエルの白さの対比になるのがね……
ダニエルとグロリアはロミオとジュリエットもびっくりのハイスピードラブなんですけど、木村ダニエルはマジで一瞬で恋に落ちてたし、May'nさんグロリアもすぐに恋に落ちたし、私は何かの沼に落ちた。(なんの?)



・エリアンナさんのポリー!!本編2時間10分のうち50分くらい出てたような気がするほどの大きな印象を残している。歌が本当にお上手なんだけど、「歌が上手い」だけじゃ言葉が足りない。ポリーとアンダーソンのシーンにおける言葉による情報の少なさと、伝わってきた情感の大きさよ。すごいな……。私は空気を読めないことで有名なんですが、そんな私でも読める空気をお二人が作ってくださっていました。



・カテコの時も思ったけど名前の出てるキャラクターは6人しかいないんですね…!という驚きがある。なんか、物語はガンガン進むし脚本的には繊細な描写がとか緻密な伏線がとかいうタイプではないと思うんですけど、すごく濃密でした。6人の錯綜する人生とぶつかり合う感情の内と外に、アンサンブルの皆さんの発するエネルギーや大衆と個人の感情、時代や街の空気が詰め込まれていた。話の構図も綺麗でした。



・セットの奥行きと懐の深さがすごい。家に帰ってすぐ日常に戻ったから余計思ったんだけど、劇場って外より狭いのに(当たり前)限られた空間の中でぽっかりロンドンが浮かび上がるのほんと不思議、小宇宙。なんて稀有な空間なんだ。



・カテコではけるとき万里生さんが木村さんの肩をポンと叩き、木村さんがほっとしたように顔をほころばせたのを見て、今日この舞台の幕が無事に上がったことに、深く深く感謝しました。



・木村さん、今回も膝から崩れ落ちる演技が見事でした。
・木村さん、外圧で吹っ飛ばされる演技もすごい上手いと思う。
・木村さん、劇場のスケールに合ったお芝居だった…!!
・木村さん、お芝居が好き
・木村さん、声が好き
・木村さん、歌声がよく通ってた
・木村さん、低音も好きだし高音も好き
・木村さん、かっこいい
・木村さん、





羊を数えているみたいになってしまったので今日はとりあえずこの辺で…








以下、ネタバレありの感想メモ。












 
・グロリア「かわいい」
・私「わかる」



・ジャック「俺たちは似ている」
・私「お二人ともかっこいいですものね」



・みんな♪ 聞いてくれ♪ 僕の話〜♪
 きのう推しがついに0番に立ったんだ♪



・みんなが自分の持ち歌を少しずつ歌うカテコ、とても好き。あれがあるおかげで後味がすっきりする…!!



・カテコの持ち歌で木村ダニエルが最後上げたのめちゃびっくりしたし最高でした。最高でしたよ



・キラキラしたダニエルが本当に眩しくてな………




・これ見間違いかもしれないのであれなんですけどダニエルがロンドンの歌の途中でキョロキョロしながらちょこっとだけ出て来たとき場違いすぎて本気で出番間違えたのかと思った。場違いであることがダニエルのキャラをよく表してた(幻覚かもしれないけど)



・これも偶々だったかもしれないのであれなんですけど、覚醒ダニエルが指で自分の唇をなぞったとき天才の所業だと思いました。闇堕ちの天才



・ダニエルが覚醒してるシーン本当に最高だったのでずっと見ていたかったです 3時間は見ていられる



・これは3人の信頼できない語り手の最終語り手決勝戦(?)の物語でもあるなあと…しかも勝ち残った語り手であるアンダーソンは世間に語らないことを選び、客にのみ語る。モンローとダニエルの言い分はそこに包摂されている。
で、アンダーソンが語らないことを選んだ理由がすごく好きだと思ったしこのお芝居の本質をついているのだと思ったんだけどあんまりよく覚えてない…けどたぶん「大衆がダニエルとグロリアの悲恋のほうに食いついてしまう、そうしたらポリーはただの引き立て役で終わってしまう」みたいなやつ…刑事のアンダーソンの報告が、新聞記者のモンローの記事が、医師のダニエルの告白がなぜ(もともとの性質に加えてさらに)信頼に値しないものになっていくのか、その答えのひとつがここにあって、つまりそれが大衆に消費されるものだからだと。それゆえに閉じられた物語を、今ここでアンダーソンが我々に開示することによって、私はこの物語を消費しているんだよ、という…実際にあった事件を舞台化するということについて作品自体が言及している。舞台上に掃いて捨てるほどある新聞紙が急にこちらに刃を向けてくるわけですね…あんたらもそうだろ、今もそうだろと。




・木村さん、舞台初主演もグランドミュージカル初主演も白井さん演出なの!!??!(最近日常でへこみすぎて記憶が曖昧なことによる新鮮な驚き)




・3年半前、同じ日生劇場の『ラ・カージュ・オ・フォール』でグランドミュージカルデビューを果たした木村さんを見た時の感想を、たぶん書いた時ぶりに読み返したんですけど、テニミュ以来の歌声に「木村さんが演技をしている時の声に惹かれてファンになったのにいざ歌い出したら歌声も最高に好みだったとか本当に奇跡」といたく感動していて、「と言っても木村さんがこのままミュージカル俳優の道を進もうとするのかどうかとかは全然わからないのですけど、でもやっぱり歌は聴きたい」「他人を演じて、他人の心情を歌ってほしい」


と書いていたので、「ふふっ…3年半後、楽しみにしててね…」と思いました。
3年半越しの壮大な独り言です。



おしまい