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王様の耳はロバの耳

言いたいけど言えないからここにうずめる

ドラマ『弱虫ペダル』で手嶋さんがちょっと間抜けに見えたことについて考える

※このブログは個人の感想です。




先日ドラマ『弱虫ペダル』第6話が放送されました。
合宿3日目、1年生と2年生のインターハイ出場を賭けた戦いです。
アニメ版を観たときはもう2年生にボロ泣きだったんですが、ドラマ版を観ていたらあれっ?と思うところがあったのでこっそり声を大にして言いたいんですけど、






いや手嶋さんそんな間抜けじゃないし!!!







そんなわけで今回「なぜ私は手嶋さんがちょっと間抜けに見えたのか」について本気出して考えてみたので書きます。ただ単に私自身の心の整理がしたかっただけ。
先に言っておくと最終的にはドラマを絶賛します。






● 間抜けに見えた理由


振り返ったところをまともにリプレイされたから。




いきなり答え書いちゃった。
でもこれに尽きると思うんです。


1年トリオが手嶋さんを追いかける最後の登り900m。
万策つきて、仕掛けたのは小野田坂道。
この追走劇は手嶋の作戦通り60秒で幕をおろすのか!?それとも……っ!?
っていうあのシーンです。
今更ですがネタバレがありますので未見の方はご遠慮ください。





「3‼︎2‼︎イチぃ‼︎ゼロ‼︎」……
60秒間リードを死守しきった手嶋さんは、安堵し思わず後ろを振り返ります。
ところがまさにその瞬間。
手嶋さんの横を小野田くんが抜き去っていったのです!!!



のとこです。もっと細かく言うと



「3‼︎2‼︎イチぃ‼︎ゼロ‼︎」……
60秒間リードを死守しきった手嶋さんは、安堵し思わず後ろを振り返ります。 ←ココ ‼︎
ところがまさにその瞬間。
手嶋さんの横を小野田くんが抜き去っていったのです!!!



ココまともにリプレイしちゃうのどうなんでしょうかね。
これリプレイされたら、私が手嶋さんだったらクッション一発くらい殴ってる。
しかも2回リプレイ……だと……
せめて1回目はわかる、小野田くんの件映したいもんね、でも2回目の後ろからのリプレイなくてもよくない!?!!!!全部で3回だよ!!ねえ!!!そんでもう後ろにいなくて「!?」ってなって前に向き直るところもリプレイされちゃってるのなんなの!!!私ならクッションの中身出してる!!(破ると掃除が大変そうなのでやめておく)
私もう手嶋さんに完全感情移入しちゃってるから、ここで主題歌流れて盛り上がってる感出されてもそのグルーヴにうまく身を投じられないですよね。。。あんなに好きだった『スキルフラワー』、このシーンだけはちょっぴり甘酸っぱい。ひょっとしてこれが…初恋…?



さて、おさらいするとドラマ版の流れは下記の通りです。「←」はなんかカメラワーク的なもの。


・ゼロで手嶋安心(スロー)
・はぁっと一息ついて後ろを確認 ←前から(スロー)
・後ろを確認リプレイ1 ←ちょっと引きの前から、横を小野田が過ぎる(スロー)
・後ろを確認リプレイ2 ←後ろから、同じく横を小野田が過ぎる
・小野田がいないと気づいた手嶋、前を見る ←後ろから
・前を見るリプレイ ←前から
・手嶋前方に小野田確認 ←前から(スロー)
・走り抜ける小野田 ←前から、スロー解除で主題歌イントロ流れる





あれ?なんかこうやって冷静になって見てみると、別にそんなに悪くないような気がしてきますね。じゃあ何が私をエントリー一個作るまでに駆り立てたのか。
せっかくなのでここで、アニメ版を見てみましょう。


● アニメ『弱虫ペダル』 RIDE.16 一点突破


アニメ版の流れは下記の通り。


・ゼロで手嶋安心
・「やった…ふり切った…」
・はぁっと一息ついて後ろを確認 ←後ろから
・小野田の声「うわああああ」 ←まわる車輪アップ
・後ろを確認している手嶋 ←横から、後ろを小野田が過ぎる
・小野田が手嶋を抜いた瞬間(手嶋は気づいてない) ←上から、スロー
・手嶋抜いていく小野田の気配察知、確認 ←アップ(スロー)
・遠ざかっていく小野田 ←後ろから



あ、やっぱりこっちの方が好きかも。ドラマ版よりかなりスマートな印象です。


見比べるとドラマ版で手嶋さんが間抜けに見えた理由がすごくわかりやすくて、ひとつはさっきから書いているように「リプレイを多用していること」。そのために、映像が冗長でモタついた印象になってそれがすべてリプレイ対象の動作をしている手嶋さんのイメージに覆いかぶさってしまっている。2つ目は、「小野田が抜いたのを手嶋が知るよりも大分早く視聴者に教えてしまっていること」。後ろを確認するところのリプレイ1でもう小野田くんが映ってしまっているので、視聴者はそれを知った状態でリプレイ2と、手嶋さんが前に向き直るくだりを見ることになります。さらに3つ目は、その手嶋さんが前を見る前に「一瞬、横を見た」こと。たったワンアクションなんですけど、これがあるだけで手嶋さんがキョロキョロしている、つまり「小野田がどこにいるか全くわかってない」感が増してしまっている。これ、ここでまだ画面に小野田くんが映ってない時なら全然いいんですけど、私はもう手嶋さんが小野田くんに抜かれたところを2回も見ちゃってるので、それでもまだ気づいてない手嶋さんが鈍臭く思えてしまうんですよね。


対してアニメ版はというと、手嶋さんが振り返ってすぐ「手嶋が振り返っている間に小野田が抜いていく」という画になって、私が「あ、抜いたんだ!」と理解した時には手嶋さんもすでに気づいて小野田くんを目で追っています。カット割りのテンポがいいので「手嶋が気づいていない」という描写も抜き去るほんの一瞬を捉えた感があって「自分が死んだことに気づいてない」みたいな味が出ているし、そのあとの手嶋さんの目線から察するに気づいたのは「抜かれきった後」ではない感じなのでそのほんの一瞬の間に手嶋さんは状況を理解したんだ!という「普段はものすごく仲悪いけどいざっていう時あいつの速さに唯一ついていけるライバル」みたいな味が出てて、なんていうかあれです、要するにアニメ版には「志村後ろ!」タイムがないのです。「手嶋〜、うしろうしろ!」つって私そんなことのためにスカパー加入したんじゃない!!!
もしかしたら、ストーリーを全く知らない状態で見たらドラマ版くらいリプレイがあってちょうどいいのかなと思うんですが、個人的には、状況を飲み込むためのタイムラグはアニメ版の小野田くんの声と車輪のアップを挟むだけくらいがしっくりきます。


でもドラマ版は小野田くんが抜いたという感動を噛み締めるだけの余韻があるし、手嶋さんのこの時点でのヒールっぽさが増して立ち位置的にわかりやすくはあるので、どっちがあるべき姿とかではなく、どの描写に重きをおいてほしいか、どういう解釈で物語を見せてほしいかっていうものすごい個人的な好みの話なんですけどね。すみません。





では原点に立ち返って、原作ってどんな感じだったっけというのを見てみます。



● コミックス『弱虫ペダル』6巻 RIDE.53 限界60秒


原作の流れは下記の通り。


・ゼロ‼︎
・「………」
・「やった…ふり切った…」
・後ろを振り返る手嶋と横を抜き去る小野田
・見開いている手嶋の目
・遠い小野田の背中と手嶋の背中



このシンプルさ。なんとたった8コマ、およそ3ページです。しかもそのうち2ページは見開き1コマ。
ドラマ版でいうとこれくらいになります。



・ゼロで手嶋安心(スロー)
・「やった…ふり切った…」
・はぁっと一息ついて後ろを確認 ←前から(スロー)
・後ろを確認リプレイ1 ←ちょっと引きの前から、横を小野田が過ぎる(スロー)
・後ろを確認リプレイ2 ←後ろから、同じく横を小野田が過ぎる
・小野田がいないと気づいた手嶋、前を見る ←後ろから
・前を見るリプレイ ←前から

・手嶋前方に小野田確認 ←前から(スロー)
・走り抜ける小野田 ←前から、スロー解除で主題歌イントロ流れる




これを見ると、漫画がいかに時間を削って削って描かれるべき瞬間だけを切り出しているかがよくわかります。そして、動かなければいけないアニメやドラマが、いかにその削られた時間を補間しているのかも。MMDの物理演算みたいですね。
ここのシーンに限るとドラマのほうは補間というより繰り返しを足しちゃってるんですけど、それを取り払ってみると実はひとつひとつのカットやアングルはかなり原作に忠実です。逆にアニメの方は結構オリジナルの演出になっていますね。アニメーション表現においてはこちらのほうが小野田くんが抜いたという事実が映えるのだと思います。



それにしても原作、今更ながらにスピード感と迫力がすごい。
抜かれたシーンの見開き、たった1コマで瞬間を切り取った画のはずなのに、手嶋さんの顔の横に描いてある「〃」だけで手嶋さんが振り返ったアクションまで見える気がするのほんとすごくないですか。iPhoneのなんかちょっとだけ動く写真かよ。
でも一番ハッとしたのはその前のページで手嶋が安心したところで、抜かれるとこ1コマなのに手嶋の安心の描写に3コマ使ってるんですよね。ここの手嶋の気の緩みが時間の流れの弛緩にも繋がってて、読者も油断してページをめくらせてからのドーン見開きっていう、この振り幅…!!緊張と緩和の逆バージョンみたいな、緩和させてからの緊張っていうそういうテンションの緩急のつけ方がめっちゃ巧みですよね……ドラマ版は緊張前の緩和にあたる台詞(「やった…ふり切った…」)をカットしていることで、話の展開のダイナミズムが弱まってメリハリがうまくついてないように感じられることも、手嶋さんの間抜けに見える面を助長している気がします。台詞だけ見たら完全に勝ったと思ってる漫画のほうがよっぽど間抜けなはずなんですけどね。キャラクターイメージを形作るのは見た目と台詞だけじゃないんだなって思わされます。




● ドラマ版について


ドラマ版ディスって終わりみたいの嫌なんで念のため付記すると、ドラマ『弱虫ペダル』、他にも「5人全員だ!!!!」のとこ正面から撮ってほしかったなとかなんか色々あるんですけど、全体的に原作に忠実で尊重されてて、とってもいいです。


だって、原作とコマレベルで比較できるってすごくないですか?あれですよ、知らないうちに手嶋さんが女キャラになってたとかないんですよ。6話だけじゃないんです、1話からずっとそんな感じです。物理演算くるったなくらいの改変しかないんですよ。すごくないですか????今まで原作もの見てるとき「なんでそこそーしちゃったの!!!!!どうして!!!!!やめて!!!!」のストレスめっちゃ大きかったんだなって気づかされたレベル。これだよ……この精神だよ私の求めてる実写化…………。


それに加えて背景が私たちの生きてる現実世界(しかもカラー)になってるので、修善寺サイクルスポーツセンターのドローン使った映像とかはリアルな景観の壮大さや自転車の爽快感みたいなのが出ててかなり良かったです。


キャラクターに関しても、若干解釈違いみたいなのを感じるところもありましたが、俳優さんの演技見てたら全然気にならなかった。このシーンではちょっと間抜けに見えてしまったけど、T2ほんと良かったんですよ……。鳴子の赤髪と巻ちゃんの緑髪と真波くんの髪型の落とし所はほんと綺麗に決まりすぎてて大好き。あと箱学の旬のイケメン各種取り揃えましたみたいなキラキラアソート感なんなんですかね?それでいてキャラクターのイメージを損ねないとか夢かよ…。


個人的には2.5次元ドラマの夜明けぜよくらいに思ってて、若干安っぽいけどだからこそ大人の事情の介入を受けない超原作尊重もの、このジャンルはまじでもっと発展してほしい。




しかしこうやって映像と比べながら読むと、漫画って本当に表現技法が豊かですね……。このあとの「RIDE.56 最後尾の小野田」で今泉と鳴子がちぎられた小野田を助けに行くかどうかで揉めているところとか、吹き出しの形やガサガサ感で声のボリュームや勢いがわかるしフォントの使い分け、傍点、文字の大きさ、吹き出しの色で言葉のニュアンスや強調したいところも伝わるし(実際に声に出した時にその台詞に強いアクセントがつくとは限らない)、コマの大きさや形、ありとあらゆる手段を使って時間の流れにメリハリをつけて読者の意識や注目点を操作している。

「ロードレースには常に勝者は1人しかいない!!」
「3人で仲良く敗退することに意味はない!!」
「あいつは追われるよりも追いかける時に方が格段に速い」


すべて同回の今泉の言葉ですが、もし台本に起こしたらさらっとこうなってしまうこれらの台詞、文字だけだと一番下はビックリマークがついてないからそんなに重要ではなさそう、上2つはまあ同じくらいの気持ちかな?くらいの印象ですよね。でも漫画で読むと全然違う。
これをアニメで声優さんがどう演技しているか、ドラマで俳優さんがどう演技しているか、そして原作の表現とその印象にどう違いがあるのか、見比べるとかなり楽しいです。メディアミックス作品全てが原作を尊重しているからこそ成立する奇跡の遊び……何より、その源流に位置する舞台版『弱虫ペダルの漫画とは違う削ぎ落とし方とい っ た ら …!!!ウェルカムレースとか漫画・舞台・アニメ・ドラマの三つ巴ならぬ四つ巴でまじで表現の異種格闘技戦です。ドラマはあと1話しかないけど…。



あっそういえば2017年1月18日(水)に!!ドラマのBlu-ray & DVD BOXが!!出るんだった!!!!


www.bs-sptv.com



レンタルは2/15からだそうなので、ちょっと興味を持たれた方は是非。