最初に正直に言っておく。
私はドラマ『銀河の一票』を1.75倍速で見ている。
いや、すみません、ほんと、わかってます、ドラマ『アンメット』を1.75倍速で観ていると言う人がいたら私も「ちょっ、ばっ、やめろ!!!!!!」とフライパンを持って止めに行くだろう。通常速度のテンポや間合いにこそ表現したいことが宿るのだ、それを踏み倒すなんて作品への冒涜だ、それは痛いほどよくわかっている。でも、なぜか私には時間がないのだ。寝過ぎで。眠いのだ、常に。仕事をして、家のことをして、子どもと一緒に過ごして、自分の衛生的なケアをしたらあとの時間はずっと眠りたいのだ。ロングスリーパーなのだ。一度睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑って検査したらギリ保険適用外の呼吸停止回数だったので特に治療には至らなかった。え、ほんとに呼吸止まってんの?それほっといて大丈夫なやつ?
その、(ちゃんと眠れてるのかあやしい)睡眠時間を削って『銀河の一票』を観ている。許してほしい。いや別に許してくれなくて大丈夫です。すみません。単に私の体力がないんです。
なので私は正々堂々と「視聴者」とは名乗れない。
「傍観者」だ。
これは、ドラマ『銀河の一票』を遠くから傍観していて抱いた、おそらく拾えてないことばかりのお間抜けな感想だ。
最初にこのドラマを観ようと思ったきっかけのひとつは、脚本が蛭田直美さんだったからである。
私の好きな俳優さんである木村達成さんが出演された短編映画『お茶をつぐ』の脚本を担当していた方で、この作品が若手俳優を起用した30分の短編としてとても見やすく爽やかで、それでいて問題提起も忘れない佳品だったのでいつか長編を観てみたいと思っていた。
短編集『人生の着替えかた』より、『お茶をつぐ』。
各サブスクの見放題で観られるのでぜひ。(『人生の〜』の方のタイトルで検索すると出てくる)
また、このドラマが宮沢賢治をモチーフとしている点も気になった。これまた私の好きな俳優さんである木村達成さんが舞台『銀河鉄道の夜2020』に出演して以来ずっと気になっている人物の一人である。(ドラマ内でも宮沢賢治の言葉がよく引用されているが、舞台を観たおかげで「わかる…わかるぞ…!」となって面白い)
さらに、プロデューサーが『エルピス』の佐野亜裕美さんであったこと、加えて、野呂佳代さんがメインの一人であったこと。
私は野呂佳代さんに多大なる期待を抱いている。
そして主演が黒木華さんとくればチラ見しない手はないのだった。
森山未來さんはもう一言目からビリビリくる、うまい、うまい、本当にうまい。黒木華さんは最初朗読風のところは凡な役者のふりをしているけれどすぐに化けの皮が剥がれる。
— とら (@qX6ZMckCaMufXH4) 2020年7月17日
森山未來の声は戯曲に棲みつく神の声、黒木華の声は劇場の神に愛された者の声。これはもはや暇を持て余した神々の遊び。
黒木華さんは劇場どころか全芝居の神に愛されている。
今回も本当にうまいなあ、、、と思いながら観ている。1.75倍速のくせにナマ言ってすみません。
そんなきっかけで第一話を視聴して、「次も観てみようかな」と思った。このドラマには信頼がおけそうだ、と思ったからだ。
一番ああっと思ったのはピンクのスーツのエピソードだった。
このドラマは、女性自身が女性差別的な構造に加担してしまっているケースがあることを真正面から描いてくれた。それだけでも類稀なドラマだと思ったが(と言っても私はそんなにドラマを観ないので他にそういうドラマが多いのか少ないのかは知らない)、さらに、「茉莉が自分に似合うと思って好きでピンクのスーツを買った」というところまで踏み込んでくれた。そこに「ああ、このドラマは信用できる」と感じたのだった。
女性であることを武器に男性の中でのし上がっていく人がいる。その人の振る舞いは時に女性差別の固定に加担する。私も、新卒で入った会社でそういう振る舞いがなかったといえば嘘になり、そのことを今も反省している。でも、「そうするしかなかった」という思いもある。そして、別に武器にしようと思ってとかそういうんじゃなく好きでやってる人だっているのだ。私はハイヒールもストッキングも苦手だが、中には「ハイヒールをばしっとキメてる自分が好き」なひとだってたくさんいて、もさい私はそういうキラキラした方々に憧れているしそこに「女を武器にしやがって」とかそういう気持ちは全くない。「好きでこれやってるんだよ」という人々の存在にまできちんと言及してくれて、このドラマは真正面から描こうとしているんだ、「女性」を「人間」として、と強く感じた。
そして第三話まで観た感想は、「今の私たちは、こんなにも言葉を尽くさないといけないのか」だった。
私たちは、私たちの政治の話をするためにこんなにも言葉で「言語化」しないと互いに伝わらないのだ。
逆に松下洸平さんの役はどうだ。ちょっと喋っただけで「わかる」。この役がどんな人を表現しようとしているのか言葉を尽くさなくても伝わる。この共通言語の出来高の違いに唖然とした。1.75倍速で観ているから余計に密度が高まって感じられるのだろうとはわかっているが、それにしても、この違いはなんだ。
私たちが政治をどう見てきたか、政治のどんな面ばかりを取り上げて見てきたのか、それがこの出来高の違いにあらわれている。
私たちが「政治」の本質の話をいかにしてこなかったか。
いや、「私たち」とか言ってすみません、「私」がいかに「政治」の話から目を逸らしてきたか。
それを、茉莉たちの言葉でこれだけ説明されて、ようやく気付かされたという思いがある。
あかりととし子さんの、一見したら「彼女たちの問題」であり「彼女たちの物語」であるように見えるものは、実は「政治」に密接に関わっている。彼女たちの苦しみや悲しみのその外側に、社会のあり方や政治のあり方が重くのしかかっているんだよということを、このドラマは三話かけて気づかせてくれた。
これは私たちの人生の話であり、生活の話であり、政治の話だ。セージでもなく、千原せいじさんでもなく、「私たちの」政治の話だ。
これを啓蒙というのかもしれない。
それならば、今まで「政治」をやってきた人は、「政治」を報道してきた人は、何を伝えてきたのだ。
「今」、「政治をやっている人」は、「今」、「政治を報道している人」は、何をやっているのだ。
ついでに、その政治を抑制するはずの「司法」はどこへ行った……?
会見も開かず、すべての国民への報告をいちSNSであるXで済ませようとする女性初の日本国首相の、「伝える気のなさ」。
首相が「やっていない」と言えば「やってないと言った」と報道するだけのマスコミ。
告発された政治家たちを次々不起訴とする検察。
茉莉たちがあれだけ言葉を尽くして政治の話をしようとしているからこそ、
今の日本の政府やマスコミの怠慢が磁石に引き寄せられた砂鉄みたいに浮き上がって見えてくる。
文春とかゲンダイとか赤旗ばかりが真実っぽいことを伝える世界になるなんて思ってなかったよ。私、陰謀論者に騙されてんのかな?と今でも思っている。
何も気にせずこのまま任せておけば、日本は大丈夫なのかな???
私は今、遠くない未来に推しの舞台や作品がまた観られない時代が来るかもしれないとおそれているけれど、そんなの杞憂で終わるのかな????
それを確かめるためにも、私たちは、言葉を尽くして政治の話をしなければいけない。
現実に目をやらなければいけない。
と同時に、茉莉とあかりがどうなっていくのか、その行く末も見守りたい。
第三話を観て思ったのは、これがフィクションで良かったということだ。
フィクションは希望を描ける。
とし子さんが「お腹空いてない?」と言ったことで、あかりは少し救われたと思う。
でも、現実では、そんな奇跡はまず起きない。
かつて認知症の進んだ祖母が、一瞬でも私を思い出すことはなかった。
でも、フィクションならそんな虚構の希望が描けるのだ。
虚構では意味がないと思われるかもしれない。でも、違う。私はあかりが救われて良かったと自分も気持ちが軽くなった。
フィクションの希望は現実を生きる私たちの心を軽くしてくれる。心が軽くなれば、その先の未来は変わる。
茉莉とあかりの今後がそんなに一筋縄ではいかないであろうことは明白だが、
できれば、どうか明るい未来であれと思う。
というか茉莉とあかりの二人が出会ったこと自体がもう「よかったね、、、」と思えるので、選挙の動向がどうであれ、日本ドラマ界のシスターフッドの名作になるのでは、、、と期待している。
いや、「選挙の動向がどうであれ」は違うな。あかりが断トツトップで当選してくれ。そして虚構の希望が現実の世界に影響を与え、実際にあかりや茉莉のような人が政治家になる未来が来てくれ。
現実の日本の政治がこれからどうなっていくのか、それはつまり私たちの生活がどうなっていくのかとイコールであり、私たちが、私が考えて動いていかなければならないのだと今、強く思い知らされている。
私は、傍観者ではいられなくなっている。
私が常に眠いことに、仕事に家事にケアに常に何かに追われている気がすることに、政治は関わっていないだろうか。
ドラマもまともに観られず、すべての景色が気づけば後ろにあるように1.75倍速で人生が進んでいる気がするのは、私だけのせいだろうか?本当に?
(いや、この件に関しては完全に私だけのせいです。怠け者なだけなんで。でも、私の周りの女性たちが常に気を張って頑張って歯を食いしばって毎日を過ごしていることが、政治や社会のあり方と全くの無関係とは思えない。)
このドラマが終わる頃、この国はどうなっているだろうか。
私がまだ感想を書けるくらい、ゆとりのある国であってほしい。
とってつけたようだが、それを願うなら世界中のジェノサイドも止まってほしい。
なんなんだ、この時代は、、、、
なんなんだ。