王様の耳はロバの耳

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舞台『血の婚礼』感想(9/16)

舞台『血の婚礼』の9/16マチネ公演を観劇しました。


ネタバレなしの感想を書こうと思ったのですが、


↑これくらいが精一杯でした。



全然見たことない木村達成さんだったけど、
こういう役がどう考えても似合うのはみんな知ってたよねー!!!
みたいな感じでした。
なんだろうこの感じ。好き。





以下、途中まで本編ネタバレなしの感想です。



木村達成さんのコメントのすごさについて

私の言語野は木村さんの獰猛なレオナルドを前にBunkamuraで燃え尽きたので、代わりに最終通し稽古を終えた木村達成さんのコメントを引用します。

杉原邦生大将の下、約5週間の稽古を経て、つい先ほど最終舞台稽古を無事に終えることができました。
みなさまに、美しく、よごれた、けがれのない魂を堪能していただきたいと心から願っています。
劇場でお待ちしてますね。


ホリプロステージ『スペインを舞台にした愛の悲劇 舞台『血の婚礼』本日開幕!』より


 
ファンだからめちゃくちゃ褒め称えるけどこれコメントが天才なんですよ
特にここ「美しく、よごれた、けがれのない魂」
ポイントは漢字をひらいてる場所のうまさですよね
もし
「美しく、汚れた、穢れのない魂」
と書かれていたら、本当に汚そうな感じしちゃうんですよ
でもこの作品において「汚れる」ことは重要だけれど最終目的ではないと私は感じました
だから必要以上に強調されるのはふさわしくない
また逆に
「うつくしく、よごれた、けがれのない魂」
と書かれていたら、「美しい」ということが伝わりにくくなってしまう
「美しく、よごれた、穢れのない魂」
だと、否定されていても「穢れ」のインパクトが大きくなってしまう
「美しく、よごれた、けがれのない魂」
この作品の目指すところをパッと見だけで訴えようとする時、きっとこの漢字の開き方がベストだなって個人的には思います。(ここまで息継ぎなし)


そんなこんなで木村さんのコメントが毎回好きなので今回もご紹介させていただきました。
この木村さんの言葉が劇場を貫かんとする作品となっております。



● 予習が必要かどうかについて

一回だけ観劇する時に、予習しておいた方がいいのかどうか迷うこともあると思うのですが、
この作品に関しては、少なくとも話の内容とか背景とかは別に知っておいても大丈夫ではないかなと感じました。
物語自体で驚いたり楽しんだりするというよりは、どちらかといえば「この戯曲を舞台上にどうデザインしたか」のほうを楽しむ演目だと思いますので、事前に原作に触れても本作の魅力はそれほど失われることはない気がします。


なので予習自体は問題なくて、むしろゲネプロ映像とかをなるべく見ない方が楽しめるんじゃないかな?とそんなふうに思っております個人的には。
(見る予定のない方や迷っている方へ向けてはあのくらい映像を出さないと参考にならないと思うので、公式さんからの情報発信を批判しているわけではありません、むしろどんどん映像出してください)


グッズとして解説音声付きの電子版上演台本が販売されているので、予習するならそれが手っ取り早そう……?私はまだ読めていないのですが。

(9/26追記:こちら拝読しましたが、演出のネタバレなしで話の内容をおさえておける、かつ今回翻訳を担当された田尻陽一先生が稽古初日にキャストのみなさまにお話しされた作品解説の音声までついているので、予習にはうってつけの教材だと思いました)



ちなみに私は岩波文庫版の翻訳だけ一度読んで、「なるほどわからん!」で終わらせてそのまま観劇したらわからないことだらけでした。
それでも伝わる、この気迫。
予習しなくても楽しめます。どちらでも。
あと個人的にはfor meかnot for meかがものすごく明確に分かれる演出のような気がします







以下、ネタバレありの感想です。
内容は個人の一方的な見解です。











● 一幕のレオナルド(木村達成さん)

声がでけぇ
いやレオナルド声がでかすぎないか????もっと穏便に!そんなイライラしないで!えっもしやレオナルドっていうか木村さんの演技が浮いてるの???と思って見てたけど、徐々に「あっ違う……」と思い始めました。


レオナルドはもう登場した時からすでに心に異常をきたしているのかもなと。
相手や周りをしっかり認識しきれていない。
だから声のボリュームを適切に調節することができない。(そういう人が異常だと言っているのではありません)
あるいは世界のすべてを見失い恐れて苛立ち威嚇している。


なんかもうすでに可哀想で、でも近くにこんな人がいたら本当に困る、嫌だな、と思いました。赤ちゃんが寝てる部屋で暴れて大声出すのはマジやめろ。起こすんならトントンして寝かしつけてから行ってくれ。あと椅子蹴る時の打点がたけぇ(足が長くて運動神経がいいから)


でも、ああ、鮮やかだな、と思ったのが、そんな彼が一瞬だけ正気に戻ったように感じられた時があって。
「あいつにはちょっと小さめが似合うんだ」。
レオナルドが花嫁の花冠の話をするところ。
彼が花嫁のことを想って言ったであろうここだけ、本当にこの台詞の時だけ、ふっと空気も、声も、表情も和らいで、それですぐまたおかしなボリュームに戻ってしまった。あの瞬間、「ああ、あれが本当のレオナルドなんだ」と思えて、それがなんとも切なかったです。


でも本当に、レオナルドのこの怖さと威圧感には驚いたし、多分私これ木村氏初見だったらもともとこういう喋り方の人なんだと思ったと思う。なんなら演技としての声量や抑揚のコントロールができない人???と思ってしまったかもしれない。
熱量?情熱量?的なものでいうと、『ジャック・ザ・リッパー』の一幕終わりのキュイーーーーーン 拳で床をドンッ!「僕のせいだ!なんとしてーもーーーーーー!!!!!!」のとこの火力が100だとしたら、レオナルドはベースがつねに火力1000だから。おかしいのよ。ベジータスカウターが壊れちゃうよ。そんで最初から最後まで自傷してるから。ジャックザリッパーの時のダニエルマジですごいと思ってたけど、今回さらに感情の器がその時の比じゃなく大きくなってる。どこまで成長し続けるの……永遠の未完成・木村達成やん…………顔にお髭を、心にサグラダファミリアをこしらえている………


私はどちらかというと髭は苦手なほうなのですが、今回2階から観てたからかもしれないけど全然気にならなかったです。というか、髭があって少し年長者に見えるからこそ中身の哀れさが際立つ感じがしました。



● 一幕の花婿(須賀健太さん)

花嫁に対する花婿、初々しくて可愛いんだけどたまにちょっと怖いなと思いました。加減が絶妙。あと、最初のシーンで母親に「また始まった!」みたいに言ったところだったかな。あそこで狂気の片鱗を見せておくことで、休憩後の二幕に違和感なく繋がったなと。チューリップの球根を横一列に植えるみたいに一幕で着実に「何かおかしい」予兆を見せることで、彼が「突然」そうなったわけではないと教える。彼もまた血筋に染められていた……とは、「血」の力をあまり信じたくない私としては言いたくないけど。
優しくて、堅実で、先の道筋を示してくれる、花婿そのものみたいな演技でとても安心感がありました。レオナルドがゆらゆらしてるので、花婿がしっかりしていてありがたい。



● 一幕の花嫁(早見あかりさん)

綺麗やねえ……
あんなにお顔が小さいのに2階から観てても目鼻立ちがはっきりくっきり見えるのよ、すごいよ……
花嫁はものすごい我儘言ってるように見えるし、情緒不安定で周りの人を振り回しているように見えるし、「何言ってっかわかんねえな」って思う時もある。でもこの人のせいだけじゃないなとは思いますね…そんなこと言うとエレンポイント爆下がりしそうですけど……(エレンポイントについては特に気にしないでください)
私だけのせいじゃない、これは私だけじゃない、ということをずっと花嫁や早見さんは訴えているような気がして、現代日本の環境に生きる私からは「えええ〜?」と思ってしまうけど、一本補助線を引きさえすれば多分花嫁は客席にいるのでしょうね。



● 一幕の妻(南沢奈央さん)

木村さんが安蘭さんの血の婚礼ラジオで、木村さんと早見さんが似ていて、南沢さんと須賀さんの雰囲気が似ているとおっしゃっていたのがとてもよくわかりました。堅実で、安心感があって、声も優しくて。
で、妻もまた、電波が干渉した時みたいにザリザリっとする瞬間があるのですよね……あの追い詰められ方、とてもリアルに感じました……妻が一番現代の人間から共感を得やすいんじゃないかなって思いました。
あと子守唄がなんかすごいこわいこと言ってる
あれレオナルドの行く末じゃんね……実は妻の言霊だったかもね。



● 一幕の花婿の母(安蘭けいさん)、花嫁の父(吉見一豊さん)、女中(内田淳子さん)、村の女(大西多摩恵さん)

花婿の母は流れるように話すので、見聞きしていてとても心地が良いと思いました(その内容は別にして)。大人キャストのみなさまとっても素敵です。ずっと台詞を聴いていたい。
そして、その彼女たちの台詞にこの世界を読み解く鍵が散りばめられているように感じられたので、もう一度よく見てまた感想を書きたいです。



● 一幕の若者(皆藤空良さん)、女の子たち(出口稚子さん、Wキャスト脇山桃寧さん)

皆藤さん演じる若者がなんかものすごく自由人に見えて、一人だけ衣装にハーネスついてないんじゃないか!?と思えたのが面白かったです(写真確認したらついてた)。若者の登場シーン、木村さんのグランドミュージカルデビュー作『ラ・カージュ・オ・フォール』のお皿のシーンを思い出したな…なんだっけ、なんかハラハラドキドキした気がするんだけど、木村さんがお皿割っちゃったんだっけ???いや割ってはいないか…(何も思い出せてない)


女の子たちは、可愛いしほんと上手だなって。出口さんは22歳なのにわざとらしくなくてすごい。大人がする子どもの演技って「大人の想像する子どもらしさ」になったりしそうなのに、ちゃんとハーネスのない子どもたちの軽やかさになってる。
幼い女の子役の脇山さん、花嫁やレオナルドに怒鳴られたりするシーンがあるけど大丈夫かな…と少し心配になりました。最近そういう幼い役者さんがトラウマになる可能性のあるシーンについて工夫やケアが大事だって話に日本でもなってきてるそうで。そうですよね……
(9/26追記:レオナルドに怒鳴られていたのは幼い女の子ではなく、女の子役の出口さんでした。申し訳ありません。良かった)
でもアフタートークで木村さんが話していたんですが、開演前に脇山さんに「緊張してる?」って聞いたら「ぜーんぜん!ちょーたのしー!!」って言っててすげー、負けてらんねーって思ったそうなので、関係は良好そうで安心しました。かわいい。



● 一幕の音楽

音楽サイコー、ちょーたのしー!!(脇山さんの真似をする木村さんの真似)
好きです。でもあんまりしっかり聞けてないので、集中して音楽を聴く回をどこかで設けたいと思います。
結婚式の朝のシーンで音楽の演奏者の方が入ってくるの、祝祭感があってすごく好きです。



● 一幕の衣装

衣装のハーネス、見た目通り血や地やそれらの価値観に縛り付けられている、的な意味なのかなあと思うんですけど、やっぱ忘れちゃいけないのはそのハーネスをつけることによって守られているものもあるっていうところですよね……それを肯定するわけじゃないんですけど、だから今そこから逃げて無駄死にするよりも、とにかく今は耐えて生きろ!!みたいな話も出てくるわけで、でもそれで耐え続けた結果がこれじゃんみたいな、でも結果私たちは生き延びられたよねみたいな、でもそれって生きているといえるのかみたいな、そういうの難しいですよね…



● 一幕の演出

全体的に演出の主張が強いな、と思いました。良い悪いではなく。すべてにメッセージが込められているように感じて、自分が調子のいい時は考察が捗るし落ちてる時は受け止めきれなくて疲れそう。
あのぶら下がってる照明の影がセットに映っていることについて、こちらの記事で杉原さんがその意図として「舞台上にきっちり世界を作って立ち上げるのではなく、これはあくまで芝居だということを常に共有して見ていただく方がいいのかなと考えました」とお話しされていて。


なるほど、であれば、客席からキャストが登場するのも、完全に暗転しきらずに場面の転換作業をわざと客に見えるようにするのもその一環かなと思ったり。これら、ある意味いちいち興が醒めたのですよね。現実に引き戻される。作り事であるとわざわざ何度も言われているみたいで。
ただ、私は杉原さんがこのあとに続けている「劇場の構造は見せた上で、お客様と俳優が空間と時間を共有しながら進んでいくような演出を目指しました」という点には見てる時は思い至らなくて、ただこの虚構の世界の空々しさや虚しさを強調するようだな、と感じていました。
あとなんか照明の影がバクテリオファージみたいだな……て思ってたらどっかで追加で出てきた照明がさらにバクテリオファージみたいだったので沸きました。あのいちおう生物なはずなのにめちゃくちゃ無機質な感じがさらにドロドロの馬鹿馬鹿しさを煽るなあと。いやバクテリオファージじゃないんだけど。


虚構に自分も取り込まれるのではなくて、虚構と現実との線引きをさらに強く感じさせられた、という感じで、私のなかで起きていたことは杉原さんの意図したこととは多分真逆なんですけど、でもそれはそれでよかったです。なんというか、現実を忘れさせてもらえないことによって、目の前の虚構の世界のことを、現実を映した鏡として客観的に、批判的に見ることができたから。



● 二幕のレオナルドと花嫁のシーン

あの登場シーン最高ですね!!これがケレン味か!!!みたいな(よくわかんないで使ってる)。
お二人ともスローモーションうますぎなんですけど、あれめちゃくちゃ足腰にくるしめちゃくちゃ筋肉痛にならない!!!????地獄のスローモーションじゃん!!!!すごすぎ!!!!
あと二人の取っ組み合いがダンスっぽくなるのも最高だし、木村さんの足がなげぇからキメが決まってかっこいいし、歌舞伎のツケ打ち?っぽい音が鳴ってたのも良かった!!二人の台詞と動きの応酬が対等で見ててすごく楽しかったです。楽しいシーンじゃないんですけど、バランスのいい人同士のお芝居って見てて気持ちがいいなあって。
あ、あと二人のハーネスが取れてるのも解放されたのがわかりやすくて気持ちいいですよね。もう誰も二人を守ってくれないって。



● 二幕のレオナルドと花婿のシーン

その前の皆藤さん演じる若者の衣装がなんかものすごく現代人に見えて面白かったですっていうか皆藤さんなんか目が行っちゃう。気になる。


で、レオナルドと花婿のシーンね!ハーネスが足に残ってる花婿が丘の後ろから現れてしまうとこもまた最高ですよね!!!照明の煽りがすごい。
あと相変わらず木村さんは殴られたり蹴られたりして吹っ飛ばされるのが上手い。そういえば今回は膝落ち(舞台に膝から崩れ落ちる)どこの騒ぎじゃないなって思いましたけど、ちゃんとそれらしきこともしてて安心しました。いや別にしなくてもいいんですけど。
須賀さんと木村さん、まさに身体と魂のぶつかり合いですけど、呼び合っているようでもあって、この気迫が膨れ上がってこれからもどんどん進化するんだろうなあ楽しみだなと思いました。




● 二幕の月とか樵とか死神とか

すみません私いまだにエヴァンゲリオンを見たことがなくて、それなのにこの台詞言っていいのかわからないんですけど、お月様が出てきた瞬間「こういう時どんな顔すればいいのかわからないの」って思いました。
楽しんでいいのか!真面目なシーンなのか!舞台上と客とでコンセンサスが取れていない!!
アフタートークによれば1日目は拍手が起こったそうで、その受け止め方で大丈夫なようです。
木村さん曰く「あれ最高じゃないですか!?」とのことです。それでいいとわかれば安心して楽しめますね。あと確か安蘭さんが木村さんに「お客様の拍手がない時は木村くんが拍手して」っておっしゃって、「丘の中から!?」「ダメですよ!!」って木村さんと須賀さんに突っ込まれてて可愛らしかったです(月のシーンのとき木村さんと早見さんは丘の後ろでスタンバイしているそう)。


でも、初見の私は本当どういう反応したらいいかわかんなくて、ただただ、あんな感じで、あんな(あえてこの言葉を使いますが)巫山戯た感じで若者たちの運命が決まってしまうことに絶望していましたね。月が気まぐれに照らすか、照らさないか。それだけのこと。なんとなく月が二人を照らした。だから二人は花婿に見つかって、レオナルドは死んだ。花婿も死んだ。死神も言ってた。「ただ、それだけのこと」。
大きな存在を前にして、意味なんかこれっぽっちもなさそうな、若者たちの命。
ただそれも、月が照らしたものを未来を担う若者と見るか、男たちと見るかでだいぶ変わるシーンですけれどね。
男のメンツ?そんなもん知ったこっちゃないわな。この馬鹿馬鹿しさよ。そう受け取れるシーンでもある。



● 二幕のラストの女たち

ここまでみんなすごい喋ってきたけど、このシーンを見ていて、花婿の母も花嫁も、レオナルドも妻も花婿も、周りの大人たちも、言ってたこと全部言い訳なんだなと感じました。嘘も本当もどっちもあるけど全部言い訳をするために話してる。相手に、自分に、自分の血に。


あと花嫁は花婿の母が自分のこと殺さないってわかって言ってるんだろうなという感じがしました。花嫁は花婿の母も自分と同じだって思ってるんだろうなって……そして多分それは当たってるんじゃないかなと。私たちはずっと殺されてきたし、でも、男たちを殺したのも間違いなく私たちだと。
いわゆるマチスモやジェンダーロール的なものに対する批判としても成り立っていると思うし、ちょうど今なら家族神話批判にも響くのかなあと……でも、すっと素直には受け取れませんでした。何が引っかかってるのかは自分でもよくわからないので、また見て考えたいと思います。「息子のメンツは?」という言葉は分かりやすかったな……。
どのシーンもそうだけれど、このシーンの安蘭けいさんは特に、美しくて哀しい。




● 二幕の舞台装置

後ろは普通にシアターコクーンの裏側大公開ですか?あの扉は『プレイタイム』で飛行機飛んでたやつですか?あの棚にずらっと並んでるの、あれ、照明ですか???一幕でぶら下がって目障りだったともいえる照明というものが二幕で後ろにおとなしく大量に収納されてるの圧巻だなあ。よく見えなかったので、次回じろじろ観察します。1階から見たら「高さ」があるからまた迫力が違いそう。


あと土と丘ねー!!!舞台上に土と丘よ……好き。あっそうだ、一幕最初に上から土が落ちてきたのもすごい好きでした。あれ好きだわ……
アフタートークで木村さんがこれココナッツなんで体に悪影響とかありませんよ!って言ってました。こういう素材あるんだなあ。色々あるなあ。


最後、一幕で外とつながる窓とか扉の部分だったとこのフレーム?だけが出てきたのは、これまで女たちを囲い込んでいた壁、すなわちイエ(家父長)がなくなり女たちが解放されたことを表しているのかなあ。違うか。わからん。



● わからなさのおもしろさ

私は最初岩波文庫版の原作を読んだ時、意味がさっぱりわからなかったのですよね。ストーリーは単純なのでわかるんですが。




でも、今回こうして目の前でお芝居が繰り広げられているのを見たらすごくよくわかった…………なんてことは全然なくて、やっぱりわからなかった。
私はスペインのこともスペイン文学のことも全然知らないので、話を読んで最初に思い出したのはバルガス=リョサの『決闘』で。短編なんですけどあれも確かほぼ決闘するだけの話で、スペイン語文化圏って決闘文化なのかな?と思ったんですけどちょっとググっただけではよくわからず。
何が知りたかったかって、私、たとえばこれが忠臣蔵的な話だったらこの話にエモさみたいなものを感じたかもしれないなと思ったんですよね。仇討ち文化に生きてしまっているので。だから、スペイン語文化圏に住む人はこの二人の決闘に私が忠臣蔵から感じるようなエモさを感じ取っているのだろうか…と思って。それが感じ取れたらまた違った感慨があったのかなと。


わからないなというのは他にもあってたとえばコオロギとかが鳴いてた気がするんですけど、そこに意味があるのかないのか?
日本語文化圏だと、物語中でコオロギの鳴き声がするとああ今は秋なんだなとか、ちょっと切ない感じがするなとか、そういうの教えてもらわなくてもわかる人が多い気がするんですけど、スペインでコオロギが鳴くっていわれても全然どういう印象を受けていいかわからなくて。


あと一幕の花婿の家と衣装の色。これらは黄色で、8月のトークショーでどなたかがスペインでは黄色は狂気の色らしいっておっしゃってたというのを知ってたからそんな意味を込めてるのかなーと考えられましたけど、何も知らずに見ていたら「黄色って陽気だな」くらいに思ってた可能性あるなとか。じゃあレオナルドの家の赤はどんな意味なのかって、それはわからないし。せいぜい「血の色かな?」くらいで。でも子守唄でカーネーションとか言ってた気がするからその色かもしれないし。そうするとスペインでカーネーションってどんな時に出てくる花なの?ってなるし。花嫁の家がオレンジ色なのは黄色の家と赤の家が混ざるからかなとか思うけど、そのオレンジにも意味があるのかもしれないし。


文化が違うと、説明されないとわからんこと多いな!!!と改めて感じました。
でも、たぶんそれを自分や日本語文化圏の感覚で受け止めたり、その中で思いがけない齟齬が出たりするのがまた面白いのだと思うんですけど。
そう思ったからこそ今回ほとんど何も予習せずに観劇して。そしたら
「なんか、よくわかんないけど、圧倒されたな……」という、理屈じゃない何かを体感することができました。
二幕を身体性で見せてくれたのがすごく良かったんだろうな…と思います。たぶん私、韻文の多い二幕はスペイン語で見るのと同じくらい、言葉の内容からの情報をほとんど何も得られてなかったと思うんですけど、言葉の意味がわからなくても、その表情と、声と、叫びと空気の振動と身体とから、その感情が痛みとして伝わってくるのをひしひしと感じました。


というかよく考えたら私たぶんシアターコクーンで観たもので「わからない」と思わなかった作品、ないな。そういう意味ではこの作品は私の中でめちゃくちゃシアターコクーンっぽかったな……来たの数回だけですけど……



次は、ちょっと勉強してから見ようと思います。
知識があったらまた違って見えるはず。
全然違う感想になってたら面白いな。




以上



9/22の感想はこちら。
ラストの解釈について私の中で大きな変化がありました。


10/2の感想はこちら。
またさらに印象の変化がありました。