王様の耳はロバの耳

言いたいけど言えないからここにうずめる

ミュージカル『プロデューサーズ』感想メモ(11/11&11/14)

11/11(水)と11/14(土)にミュージカル『プロデューサーズ』を観ました。


※ 日程後半に観劇した感想はこちら





◆ 11/11(レオ:吉沢亮さん)の感想


今回、かなり斜め上の席から観たのですが、半分くらい台詞や歌詞が聞き取れなくて「これが噂の音響の悪さ……!」と思いました。音は聞こえるし滑舌や発声が悪くないのもわかるんですけどなぜか言葉に変換できない。シャボン玉の中から観てるみたいでした。
あと急な角度で見下ろすのでサイズ感とか高低差とかわからなくなるんだなあと思いました、これは別にどの演目でもそうですが。



そんなあんまり良くない条件下ではありましたが、それでもかなり楽しかったです。
この状況にこそエンターテインメントをという、みなさんの一丸となったエネルギーに圧倒されました。
オリジナルや日本初演版は見ていないので比較できないのですが、2005年映画版と比べると結構そのままな印象で、思ってたより観やすかったです。
そして好きな役者さんが輝いていてとても心が躍ったー!!




以下、ネタバレありの感想です。



井上芳雄さん(マックス)

このお芝居は井上芳雄という名の土俵(土俵?)の上に成り立っている……と思いました。
歌、芝居、ツッコミの三拍子揃ったALSOKのホームセキュリティみたいな安心感があるからこそみなさんがのびのびと演技をされているしこちらも「そんな変なことにはならないだろう」という安らぎを得られる……とても偉大な存在でした。
二幕の『♪裏切り者』はこれぞ「芸」を見せてもらっていると思ったし、あと一幕冒頭の『♪ブロードウェイのキング』も、なんか言葉にならないんですけど「おお、、、」と。ユダヤ音楽にのせて井上さんとアンサンブルのみなさんが作り上げる悲喜交々の猥雑さ(「俺を見ろ」とかね……)、あれでもうその後繰り広げられるであろう無茶苦茶に対する腹も括らされる感じがします。プリンスが鳴らす渾身のゴング。


吉沢亮さん(レオ)

吉沢さんは映像のお芝居でも声がよく出るし変顔の表情も豊かだし瞬発力がありオタクの視線を内面化している人というイメージだったので、発表された時からコメディやレオ役は似合うだろうなーと思っていたけど、やはりぴったり!!!!
歌も元々お上手と聞いてましたけど、本番までにここまで持って行くなんてすごいなあと…本人がどんなに努力しても間に合わないことってあると思うので。
あの井上さんに「ブタ…ブタ……」とか言いながら食らいついていく吉沢さんと、適宜突っ込んだり受け止めたりする井上さん、なんか見ていたら泣けてきたし「美しく優しい世界……」ってなりました。いや実際の言葉のやりとりは全然美しくも優しくもないんだけど。お二人が並ぶと「スターが2人!」という感じになるので、単純に嬉しい。個人的に吉沢さんにはブレイク前から色々出続けている地層と表現欲のマグマみたいなものを感じるんですよね……そこもレオによく合っていました。


春風ひとみさん(ホールドミー・タッチミー)

えげつない台詞を言っていても滲み出る品の良さで中和されていく(これは今回の役者さん全員にある程度共通していたことのように思う)。すごい。
マックスとおばあさまたちのシーン、個人的には色々あれなんで全然笑えないんですけど、おばあさまたちの国はサンリオピューロランドかな?と思うようなラブリーな雰囲気で、特にコーラスと群舞は愛らしさと迫力が同時に押し寄せてくるという個人的にあまり体験したことのない光景でした。
登場人物全員が「パワフルで好きなものを追い続けている」からこそ最後「なんかよくわからんけどとにかくよかったねえ!!」でそれなりにすっきり終われるんだと思うんですけど、それも春風さん演じる最年長のおばあさまがこれだけお元気でチャーミングに振り切れているからこそかなと思いました。


佐藤二朗さん(フランツ・リープキン)

「あっ、この人知ってる、佐藤二朗だ!テレビでよく見る!」と思いました。
個人的には映画版よりフランツの人物像が少し丸くなっていてとっつきやすい感じになっていたなあと。ここの圧が強すぎたら見ていて心が折れたかもしれない。「グーテンタークぴょんぴょん」という言葉の気が抜けるような語感と佐藤さんの気張りすぎないフランツの雰囲気がよく合っていました。
佐藤さんがいることで、良くも悪くも今ここが2020年の日本であることを思い出させてくれる。作品の中に特異点が生まれる。私は嫌いじゃないです。ほんとはちょっと好き。


● 吉野圭吾さん(ロジャー・デ・ブリ)

劇中劇の吉野さんとても良かった……
そもそも全体的に令和の今でも面白いのか?と思う冗談が多いんですけど、その中で吉野さんロジャー&木村さんカルメンの「できるかぎり属性を外から面白がらない、属性だけで笑わせようとしない」役作りはとても好ましく感じました。これが演出の福田さんのさじ加減なら嫌いじゃないなあって……本当の本当に「できうる限り」ではあるんだけど……少なくともお二人とも自分の役を「ゲイだから面白い役」とは思っていないだろうと感じるというか……特に吉野さんはやろうと思えばもっといくらでも極端にできると思うのですが、それをできるだけやっていないところが個人的に好きだなあって……
しかもあの吉野さんの劇中劇のお芝居なら「実はすごい深いお話なんじゃ!?」ってなってしまうのめっちゃ納得できる。なんかオタクの「見えないものを見てしまう」力が発動するというか、実際「ハッ…この演出……『エリザベート』でも見たな……」とか思っちゃったし。考察が捗りそう。ロジャーが本気でちゃんとやってる様が見えてすごい好きでした。
あとロジャーが契約書にサインするところでフランツのシーンとエリザベス被り起こすのがこの作品で一番好きなジョークです。(あれロジャー側にも何か深い意味があるのかな…)



木村達成さん(カルメン・ギア)

手足の持て余し方が美人。
はーーー綺麗だったなーーーーー反らされた背筋が美しいしメイクでキリッとした目が強調されて最高に素敵だったし、眉をハの字にしたときの悩ましい顔も魅惑的だった。
気品があり、誇り高く、愛情深い。
いいなーーーーー!!!!
あの麗しのサブリナ的パンツスタイルとヘプバーン的髪型を提案してくださった方ありがとうございます!!衣裳の生澤さんでしょうか?ありがとうございます!!スタイルの良さが際立って本当によく似合っている。情熱の赤を基調としてるのがまたいいんですよねー。
あと二幕の衣装!!映画版は私服とそこまで変わらないんだけど、今作ではドレスアップしていてとてもキュート…!一幕の衣装に比べてもっとしぼれるっぽいのにしぼらないところにカルメンの好み(と衣裳の生澤さんのこだわり)が凝縮されていますね…あの髪型にワインレッドのタキシードを合わせるカルメンさんってめっちゃいい。
しぐさや言動についてはかなり映画版を踏襲していると感じたんですけど、同じことをしていてもちゃんと木村さんのカルメンらしさがあって、ほんと、「やったな!!!!!」って思いました。指先からつま先まで作り込まれてますね……!
いつものかっこいいお辞儀(※)を封印してスカートの裾をつまむようなお辞儀をしていたのも麗しかったです。
本編中は「今の木村さんの声か!?」と思ったところが多かったので(斜め上からだと意外と口元が見えない)、また観劇できたらまずそこらへんをよく確認したいです。

※ 参考動画:エリザベート2019年8月25日カーテンコール(1:05より)



● 木下晴香さん(ウーラ)

このメンツで最後に出てきてこれだけ強烈なパンチをくらわせられるとは……
私は今回、この作品で木村さんや木下さんの役がどういう演出になってしまうのかちょっと不安で、木村さんはともかく木下さんについては「変な感じにしたら一生許さんぞ
という強い気持ちで臨んだんですが、およそ杞憂でした……木下さんは本当にすごい。歌も上手いしダンスもキュートだし。めちゃくちゃ歌えて踊れるからウーラ役だともったいないかもって思ってたけど、わざと下手にするんじゃなく(あれは映画版だけの設定なのかな?/後日追記:BW版聴いたら同じところからガッツリ歌ってた!)ちゃんと歌わせてもらえてたの本当によかった。ダンスは抑えめだったけど、ポジションが綺麗に決まるので舞台によく映えていたし。衣装も全部とっても可愛くてよく似合ってて。本当に青が似合う。衣裳の生澤さんありがとうございます!!
下ネタに絡んでも下品にならず、露出が多くてもいやらしくなく、とにかくヘルシーな色気なんですよね。あと落ち着きがすごい。
うまく言えないんですけど、私はたぶん木下さんや木村さんなどの若い人が一昔前の日本のステレオタイプ的な笑いや価値観に消費されるのが怖かったのかなと思うんですけど、あまりそんなことはなく、むしろウーラやカルメンがきちんと自我のある(「おもしろ」のためのステレオタイプの枠組みに完全には押し込まれてない)若者たちになっていて、その点については好感を抱きました。
あと、フランツの下ネタに困惑してウーラとカルメンが顔を見合わせていたのが可愛かった。特にカルメンが眉をひそめていてすごく良かった。「だよね」って思った。


あとカテコでウーラとカルメンが並んでいる時のビジュアルが『ガラスの仮面』の「ふたりの王女」編のマヤと亜弓さんにちょっと似ている…(キャスト発表時の「まさか…ミスキャストでは…」からの「ハマり役でした」の流れも込みで)と思ったのでちょっと二人に「ラストニア わたしの国…」って言ってみてほしい。そんでカテコで亜弓さんがニッコリて笑ってマヤがぱちぱちしてるやつやってほしい。



● カテコの話

この日のカテコでちょっとしたハプニングがあったのでメモ。
3回目のカテコで本来は井上さん吉沢さんだけが出てきてくださる予定だったようなんですが、
主役のお二人が真ん中に出てきたところで木下さんが下手から出てくる→そのあとについて木村さんも「???」となりながら下手から歩いてきてしまい、
途中で木下さん「?…??」
それを見た井上さん吉沢さん「!?!」
井上「(主役の)2人だけ!」
木下「!!、!!!(キョロキョロあたふた)」
木下木村「(顔を見合わせる)」
木下さん木村さん帰ろうとするも井上さんが「もうみんな出てきちゃえ!」
で、
みなさん「(いいんかな…??)」という顔で出てくる
春風さんだけノリノリで真ん中の方に出てくる(そう見えた)(お可愛らしい……)
みんな並んだらかなり下手側に寄っていたので上手側のアンサンブルさんは出てこられなかったのかも?
そしてその後ろを吉野さんロジャーが上手から下手へ颯爽と駆け抜けていく→はっとした木村さんカルメンもその後を追って下手へ走っていく
みんなでお辞儀!
…というような流れでした。(ロジャーとカルメンが帰ってきたかどうかは覚えてない)


木下さんと木村さんが異変に気づいた時、木下さんが「(あれっ?あれっ?)」ってキョロキョロして恥ずかしがってたのが役が抜けた時のマヤみたいで(またそれか)可愛かったし、それを見る木村さんが素の時のアハハ!みたいな反応ではなくカルメンのまま、ちょっとはにかむような感じで困ってアヒル口になりつつお姉さんの顔でどうしようね、という感じだったので純粋すぎるマヤといる時の亜弓さんみたいでため息出たし「カルメンさんすごい頼りになる……好き……」ってなりました。一緒に間違えてるんだけどね!!!
お二人のうっかりドジっ子な一面が見られてほっこりしました。
そして劇場の「……?」という空気を大団円な雰囲気にしてくださった井上さん、吉野さんは本当にさすがでした…!!













◆ 11/14(レオ:大野拓朗さん)の感想


やっっっばカルメンさんやっっっっっば

今回は1階席で観たのですが、まず台詞が聞き取れたし何より斜め上から見下ろすのとそれなりに正面に回り込んで見るのとでは、エンカウント感が全然違いました。
斜め上からじゃ頭身とかわからなかったのですが、まさかこれほどまでにお人形さんみたいなスタイルだったとは……SUKI



以下、感想です。

大野拓朗さん(レオ)

めっっちゃ良かった、吉沢さんと最高のWキャストだと思う。大野さん、本当にミュージカルうれしい!たのしい!大好き!というのが伝わってきて、見ていてちょっと泣けてくる。
根が陽のレオという感じなので、プロデューサーになるという(彼の現状から見ると)突拍子もない夢を見続けたところやリオからニコニコ手紙書いちゃうところとかすごく納得できる。
一方吉沢レオは青いブランケットに依存しているところや繊細なところが切実で(「依存してて」と人に言う時の葛藤と自己受容を過ぎた言い方がうますぎる)そこが他人事じゃない笑いに昇華されてる。
あと大野レオはマックスと一緒に周囲に振り回されている印象なんだけど、吉沢レオはわりと最前線でマックスと対峙してる。ラスボス。てか吉沢さんと木村さんの同学年1993・1994年組すごくないですか。吉沢レオと木村カルメンの組み合わせ、レオがロジャーの好みであるといち早く察して威嚇してるカルメンの図に説得力が増すんですよね……ナイスキャスティング!
大野さんの方は歌やダンスも端整で井上さんとよく色が馴染んでいて、そのザ・グランドミュージカル的統一感が逆に台詞のバカバカしさを増して「東宝謹製 最低ミュージカル」という趣がありました。
吉沢さん・佐藤さんが参戦することによる異種格闘技戦のような鮮烈な化学反応を楽しめる吉沢ver.と、井上アベンジャーズfeat.Jiro Satoの活躍を堪能できる大野ver.という感じで、どっちもとってもいいなあと思いました。


木村達成さん(カルメン・ギア)

今回気づいた好きなところ
・笑顔がくしゃっとなって可愛い(あんなに気高いのに……素敵……)
・大きな音(主に佐藤二朗さんの声)がすると肩からビクッとなるの猫みたいで可愛い
・ロジャーと話してる時ほんと楽しそうでいいなあ
・ロジャーの才能がきらめく時ほんと嬉しそうでいいなあ
・ロジャーとレオの香水のくだりの後に不安そうなカルメンに向かって吉野ロジャーがすれ違いざまにさりげなく「冗談よ」ってポンポンしてるのを見た気がしたんですけど、そりゃ好きになるわ(ロジャーを)
・撃たれそうになる時ロジャーの前に出て守ろうとしてるの健気
・くるくる変わる表情(ロジャー自身とロジャーの才能そのどちらも愛していると伝わってくる)
・ルドルフ先輩(井上大野)を謎の間と圧で押す2019ルドルフ(木村達成
・真顔のステップ
・どっから声出してるのかわからない声好き(前回これ木村さんの声か!?って訝しんだところ全部本人だった)歌中のドナルドダック、裏声、オーディション時の静かに!!などなど
・『♪初日にそれ言っちゃダメ』のカルメンの歌声めっちゃかっこよくない??????
・花束を渡しに行く時の動きのダイナミックさが好き
・カテコの歌と踊り、こなし方とあしらい方が美人のそれ
・はけるときの振り向き様のついばむような(?)バイバイとピンと伸びた背中がかっこいい
・オーディションシーンで前回は平然としてたカルメン、今日はフランツの転調のくだりで最初からツボに入っており半笑い、そこからすぐ顔を後ろに向けてしまう→ウーラが手のひらでやわらかくトントン、トントンと背中を叩いて客席側を向かせようとする 鬼か 可愛い
・カテコで大野拓朗さんのお誕生日をお祝い。レオにロジャーとカルメンが左右から勢いよく頬に口づけ→すぐに自分の立ち位置に戻ったカルメン、右手の甲で勢いよくぐいっぱっと自分の口を拭い去る←なにそれかっこいい



● その他のツボ

・木下さんのウーラの歌声、1階で浴びたらもはや可愛いとかじゃなくて「かっこいい」だった。
・井上さん、マントみたいなコート似合いすぎでは……??めちゃくちゃかっこよくない????髪型・メガネでさらにドンじゃない????
衣裳の生澤さんありがとうございます!!
!!!











以下、個人的に気になったことなどについて。


● 劇中劇の吉野さん

二度見てもやっぱり好きだなって思いました……映画版の「あの人物がゲイだから面白い」から今作は「ロジャーのまさかの熱演に笑っちゃうけど引き込まれる」に文脈が少しシフトしている気がするというか……滑稽さを他の文脈で作っているというか……今の日本で前者をやったら(迫害などへの痛烈な皮肉の面も見えずに)ただただゲイを道化役と認識しているように見えてしまうのではないかと思うので……少なくとも、口の横に手をやったりとかの仕草がこれみよがしに前面に出てこなかっただけでもちょっと安心してしまったというか……2000年代にブロードウェイでこの役を演じるのと2020年代に東京でこの役を演じるのとでは、それなりに大きな違いがあるような気がしていて、私は吉野さんとカンパニーのこのローカライズというか、さじ加減を支持したいなあと……



● 『♪オネェで』という訳

一幕でロジャーとカルメンたちが歌う『♪オネェで』、原曲は『♪Keep It Gay』というのですが、「gay」を「オネェ」って訳すのはちょっと雑では…?と思いました。でも日本語の「ゲイ」だと原曲の「gay」の「ゲイ」と「陽気な、楽しそうな、華やかな」というダブルミーニングが成立しなくなってしまうんですよね。映画の字幕だとふりがな技が使えたけど。「オネェ」という言葉には確かに「陽気な、楽しそうな、華やかな」イメージもあるのでポジティブにそれを採用している……と考えればわからなくもないし、ロジャーの演出イメージや言わんとしていることは確かに伝わっているけど、でもじゃあ冒頭でわざわざ「芸…あ、オネェのことじゃないよ!」というのはなんなのかなと……あの冗談?があることで「オネェ」という言葉を粗雑に使っている印象が強まる。あれはオリジナルだとなんて台詞なんだろう。
それかひょっとしてこれ日本初演の15年前の訳のままなんでしょうか。それなら、もしかして当時は「ゲイ」という言葉がまだ一般的でなかったのかなあ?だから代わりに(代わりにはなってないけど)「オネェ」という表現を「オカマ」などよりポジティブな言葉として使った…?とか…?冒頭の台詞は言葉の紐付け?
かんがえてもわからん。
このあたりの翻訳や吉野さんロジャー率いるレインボーチームの演出に当事者性があるかないか、どの程度現在の日本の当事者感覚とのすり合わせがなされたのかは外からはわからないので、非当事者の私があまりどうこういうことではないのですが。



● 楽しかったです

木村さんが雑誌『fabulous stage Vol.13』(2020年11月発売)のインタビューで、この作品の映画版について「ちょっと難しいところもあるなと思った」「舞台やエンターテインメント界についての知識がないと、解釈に時間がかかるというか」「最初に観た時には“何を笑いに変えているか?”というところが、僕にとってはキャッチしにくかった」と言っていて、いやほんとに、ほんとにそれ、と思いました。(私が思ってるのと木村さんの発言の主旨はだいぶ違うかもしれないけど)
“何を笑いに変えているか?”、それってコメディを誠実にやるならきっと毎回毎回立ち止まって検証すべきことなんだろうなあって。脚本と演出が場所や時間を超越していくなら特に。


私は1960年代や2000年代のブロードウェイどころかミュージカルのことも全然知らないので、この話のどこが皮肉でどこがパロディで、どこが風刺、批判、ブラックジョーク、あるあるネタなのか全然見分けがつかなくてですね……そういう類の笑いには前提知識が必要だと思うんですけど、私はそれを持ち合わせていないので、ただただ下ネタとおちょくりのオンパレードに見えてしまうんですよね。しかもその残ったどちらもあまり好きではないので、単純に自分にはこの作品を理解するリテラシーがないのですが、それでも映画は結構好きだったし(そうなのかよ)今回のミュージカルもかなり楽しく観られました。


繰り返しになるけど、2001年の初演当時8歳とか2歳だった若い世代の人たちが、現代日本の演出下でゲイ(「オネェ」)やブロンドの外国人女性をおちょくるように演じさせられて価値観の再生産の一端を担ってしまうようならそれはちょっとつらいなあと思っていたので、なんの内省もなしにそのような構図になったりはしていなかった(ように私には感じられた)ことは良かったなあと……ウーラもカルメンもかっこいいんですよね、憧れちゃう。覚悟してたより全然フラットな演出だったなあって。特にウーラをどのような人物にするかはまじでまじでこの作品の生命線のひとつだったと思うので(ナチュラルに「女の子はちょっと実力が足りなくてちょっとおバカなくらいのほうが可愛い」みたいな価値観でこられたらほんと無理だったけど、日本エンタメの色々な現状見てたらそのような演出も全然あり得なくなかったと思っている)、少なくともそこに関してなんか変なことにならずに木下晴香さんが魅力的に見えたのは嬉しい。



あともうひとつ良かったなあと思うのは、うまく言えないんですけど、井上さんの「この時代に座長としてこの作品の笑いをまっとうする覚悟」みたいなものかなあと……
井上さんをはじめとしたメインキャストさんやアンサンブルさんのパフォーマンス、生オケの音、煌びやかなスタッフワーク(そしてそれを後押しする福田さんの演出)……の気持ちの強さに押される、持っていかれるという感覚がすごくあったような気がします。
内容や演出は賛否両論あるだろうし合わない人もいるだろうし時代や文化にそぐわない部分もあるのかもしれないけどそれを引き受ける覚悟をした上で(もちろんたとえやる側が全てを引き受けようとしたところで、関係ないところで踏みにじられる人がいるかもしれないことに変わりはない、そこは忘れてはいけないしそれを忘れない覚悟も含まれるのかなと思う)「やるんだからやるんだよ」みたいな全力投球が目を見張るし、とにかくこの作品の良さを、面白さを、表層部分の下にある魅力を、自分たちのパフォーマンスで伝えたい、届けたい、という熱みたいなものにこちらも浮かされたというか……なんかそんな感じがしました。
なので、「あそこはよくわかんなかったな」「あの部分は違和感あったな」「あれはホント受け付けなかったな」という思いは多々ありつつ、そして「私は何を笑ったのか、この足で踏みにじっているかもしれないものは何か」を考えつつ、でも「その想いは、しかと受け取りました!!」みたいな気持ちで劇場をあとにしました。
あの時もらった元気で今なんとか生活してるみたいなとこある。エンターテインメントすごい!





以上






参考記事:【随時更新】木村達成さん出演作・今後の予定まとめ - 王様の耳はロバの耳
(色々盛り込みすぎたためページの読み込みに少し時間がかかります)