王様の耳はロバの耳

言いたいけど言えないからここにうずめる

TOHO MUSICAL LAB. 『CALL』感想メモ



TOHO MUSICAL LAB.を観ました。
2作品とも、とても素敵でした。


今、この状況下で東宝さんがこのプロジェクトを立ち上げたその意義についてや、何が演劇を演劇たらしめるのか、この作品は我々に何を伝えようとしているのか……といった考察をしてみたい気持ちはあるのですが、
いま頭の中が

「推しがお芝居してた!!!!!」

という「赤ちゃんが寝返りした!!」みたいな感動でいっぱいなので、
何も考えず素直に「うわ、好き」ってなったとこを書きます。
なお推しは木村達成さんです。
『CALL』ヒダリメとても好きだった。

※ すみません、すべてネタバレです。




● ヒダリメとミナモが出会うシーン
舞台上にいるミナモと客席側にいるヒダリメを横から写すことで意識にのぼる、舞台と客席の境界線みたいなものが好き。2人の間で一番星みたいに光る照明が美しい。



● ヒダリメという名前
記録やカメラの擬人化のような「メ」に「ヒダリ」という言葉が付いていることでその名前に方向や重力を感じさせる。どうしても対になる言葉だから、聞いた瞬間に「ミギメもいるのかな」という考えがふっと頭をよぎり、結局それが登場しないことでなんの説明もないのにヒダリメという存在に微かな喪失感が宿る。でも「ミギメ」と「ミナモ」って若干響きが似てるじゃん!?とか思ったりする。
すごくいい名前。



● 「ドローンだから声も見つめられる」
彼はどうやら動画で見つめてるっぽいのに、残る記録は映像ではなくて写真であるという設定が切ない。写真に声は残らない。だから我々は声の残る円盤を所望してしまうのだ……けど、彼は一瞬一瞬を彼のフィルターを通して記録に残してきて、そこに誇りを持っているというのがそこかしこの台詞から伝わってきて良い。その時の音が蘇るような、聴こえてくるような写真ってありますよね。



● 記録用ドローンは観客になれるのか
「じゃあヒダリメは観客?」と聞かれた時の、「…え?」という、「何言ってんの?」みたいな、心底そんなこと考えたことなかったみたいな反応が良かった。
その前にヒダリメは、観客とは「作品を見てる、人」だと言って劇場を見渡しているから、「客席上方」を飛んでいたであろう「ドローン」の自分が観客と呼ばれるなんて思ったこともなかったのかもしれない。
そしてミナモに観客認定されて、自分の中でじわじわ飲み込んで何度も頷いて、嬉しそうに「そうだね」と言ってからのテンションの上がりようがとてもかわいい。
ミナモはヒダリメに色んなこと教わったけど、ヒダリメもミナモに自分の価値みたいなものについてたくさん気づかされていて微笑ましい。



● お辞儀を促す手と頭の角度が良い
お辞儀を促す手と頭の角度が良い。



● 星空みたいなクラップ
このシーンめっちゃ良かった、好き、「わあ」って思った。
最初ヒダリメが「上出来だね」って拍手した時、なんか耳に残る音出すなあと思ったんだけど、それをミナモが「星空みたいにクラップする」って表現したから「ああーーーそういうーーーー!」ってひっくり返りました。

ヒダリメの拍手、「パン」寄りの「ポン」(なにそれ)に聞こえるんですよね。
ポン、ポン、ポン、ポン、ポンポンポン。
これは「パン」という音が出る時よりも手のひらに空気が内包されてるせいかなと思ってて、それが両手に感情を包み込んでいるみたいで良いんですよね、、、そして最後にその感情を握り締めている。
さらにここに音の高低がついていて、
たん、とん、たん、たん、たん、たん、とん。となっているので、拍手に表情が生まれてまた良い。
それをミナモが童心と感受性で「星空みたい」って言っちゃうの最高だなと。


そこへさらに「静寂の暗闇にひとつずつ星を並べるみたいなクラップ」という追い討ちですよ。そんなド直球なメルヘンロマンチック直喩する〜〜〜〜!?めっちゃいいんですけど〜〜〜〜!?!?

そこからミナモがクラップで星を飛ばしてみせて、それを二人の視線が追うシーンがほんと好きですねーー! 二人の動きで星の上がるスピードがわかる。
これはある意味、残響の行方を追ってるんだと思うんですよね、自分の拍手がどこへ行き誰に届きどう影響するのかっていう。
ここでミナモは手のひらをずらして平たくパン、パンと叩くので、そのまま遠くまで飛ぶんですよね。星が。あっちこっちに。その勢いに若さがある。
一方でヒダリメは「ポン」だから、そのままだと星は手のひらの中にとどまってしまう。それで勢いをつけて外に解き放つみたいな動作が加わるんですよね。届けたい方向を意識して。で、星を放ったあと、自分の手のひらを見つめる。自分の拍手の力を初めて知ったみたいに。
すっごい好きです。
田村さんと木村さんで銀河鉄道の夜をやろう。(?)
(追記:後日本当に木村さんが銀河鉄道の夜に出演されることが発表され驚きました)



● 「鳩でしょ?それは」
グッときた台詞オブジイヤー
この言い回しめっちゃ良くないですか????
「かもめだね」「『クルックークルックー』か!」ときて「それ鳩だし!」とかだったら普通の若者たちのボケとツッコミなんですよ。
そこを「鳩でしょ?それは」ですよ。
めっちゃ柔らかくないですか????
あああー、文字だとあの優しさを表すことができない!!!!もどかしい!
劇場専用ドローンだから実物見たことないのかもしれなくて、覗き込むような仕草から「俺だってそれくらい知ってるんだぞ」的なニュアンスも感じられるのが好き。


あと、最初の出会って2回目の「ごめんね、」も良い、柔らかくて良い。1回目「ごめん、」だった上での2回目「ごめんね、」が最高に良い。「そうだね」「上出来だね」「この席ね」など、今回「ね」がむちゃくちゃ良い仕事をしている。
一人称は「僕」じゃなくて「俺」だし、敬語を使ったりもしていないんだけど、言い回しは柔らかくてふわっとしていて、しかもそこに違和感がない。そこが良い。
きわめつけは「聴こえてるよ」の優しさ〜〜〜!!!!!
全体的に文字で見るとかなり年下の子に話しているようなイメージでこういう口調になっているのかなとも思うけど、木村さんのヒダリメはミナモをそれほど子供扱いしてない感じだし、むしろわりと対等なのにこの口調が不自然じゃないのが好き。


ある程度当て書きだったのか、稽古で細かい言い回しのすり合わせがあったのかわかりませんが、役と 木村さんの纏うことができる空気と、あと田村さんとの間合いの相性の良さがぴったり合わさってめっちゃ可愛いヒダリメというキャラクターが出来上がっている感じがして「すごく良い」と思いました。(良いしか言ってない)


三浦さんがインタビューで木村さんについておっしゃっていた浮遊感と現実味、ファンタジーとリアルの両立って超わかる、めっちゃいい………三浦さんありがとうございます……
三浦さんの滲ませる愛情深さとか全肯定感が木村さんのスーパーポジティブ包容力を引き出していて最高でした。
劇場そのものみたいなヒダリメの、あたりを愛おしそうに見つめるあの顔や佇まいは、なんていうか今だからこそより強く胸を打つんだろうなあと…………
‪劇場という場所の懐の深さを、木村さんが表現してくれていた気がする。‬
あと髪型、パーマかけて大正解だと思いまして。あのフワフワ感が出で立ちに合ってた。



● ミズハシさんの席に座るところ
あそこに座るとき何か驚いたように座面を見てますよね?あと胸のとこ叩いたりとか、あの一連の動作の意味が読み取れなくて、「客席に座ったのが初めてだったのかな…?」とか「過去の記録を読み込み中なのかな…」とか考えたんですけど答えは出ませんでした。いや、だって、「自分に何か異常を感じた」とかだったら一気にさみしくなるじゃん…………あの笑顔……


そしてここすごく見せ場だなーと思った、画面いっぱいの赤い客席に二人だけが座る姿。空席に二人が映えていた。数ヶ月前までたくさんの人たちが座っていた場所だという共通の認識があるからこその「映え」。
それにしても、真っ赤な座席が規則的に並んでいる風景は圧巻ですね……劇場のこんな顔は知らなかった。

両端の二人がひと席ずつ近づいていくのがただでさえ芝居掛かった演出でサイコーなんですけど、さらに今は観てる側に「距離」っていうセンサーが発動するじゃないですか。最後に二人が隣り合うことはないと、言われる前からわかってしまう。だから、ヒダリメの早めの表情変化も読み取れる。
「2m」とか「座席は前後左右空ける」とかっていう(今までにはなかった)定量的な「距離」の共通指標が身に染み込んでいる、この特異な状況だからこそ面白く観られるシーンだなあと。
あと、二人がくるって回るとこが可愛い。



● わかんない
「どうして来なくなっちゃったの」
「わかんないな俺には」
作品中で一番好きだった台詞。
「この場所のことしか知らない」劇場専用ドローンの悲哀のようにも思えるけど、実は誰だってわかんないんですよね。人のこと。劇場の外のこと。


(7/14追記)
配信終了間際の駆け込み再生で思ったけど、「わかんないな俺には」はやっぱりその後に続く「俺はこの場所のことしか知らないから」込みで好きな台詞だったなと……「わかんないな俺には」には、ヒダリメらしくない自嘲と自棄みたいなものがほんの少しだけ感じられるんですけど、それに続くこの台詞がまるでそれを拭い去るような覚悟と自覚を持って宣言されている。その演技が良くて響いた台詞だった。あと1回目見たときは気づかなかったけど、そうかシアタークリエもそんなふうに思ってたのかな……と思った。今を強く反映する台詞だ……


● 小声
「距離が縮まって!」
「ほんと?」
「えっ?お姉ちゃんいたの?」

三大可愛い小声。



● 「感謝」
ミナモがオドリバさんに何してるのか聞かれて「感謝」と答えた時のヒダリメの「!」なリアクションがいい……



● オドリバとシーナ
オドリバさんめちゃスケールでかくないですか……負け惜しみでも強がりでもなく本当に静寂に景色に聞いてほしいと思ってるんだなあと。妃海さんの説得力が、ともすれば劇場の「内側」の話に終始しそうなこの物語に突き抜けた広がりを持たせていた。
森本さんのシーナさんは一番突拍子も無いようでいて現実へのリンクになっている。初っ端からストロングゼロ持ってて「そうか」と思いました。お姉さんたちは拍手とか知ってるんだね。
舞台上で行われているのは演劇じゃなくて音楽のライブなんだけど、「三人姉妹」に「かもめ」の衣装を着せることでヒダリメに演劇の記憶を思い出させてライブと演劇をないまぜにしているのが上手いな〜と思いました。


● 小声2
ミナモ「ヒダリメ」
ヒダリメ「ん?」
ミナモ「またあたしたちのうた見つめてくれる?」



● 「配信やめてよーバズっちゃうからー」
に対する「……(笑って)はい」が酔っ払ってしまった上司にウザ絡みされた時でもちゃんとしてる部下みたいで良い。



● サビのヒダリメ視点の映像
これがヒダリメが目に焼き付けている風景か……っていう感慨。生の舞台でもヒダリメ視点の映像を映すとかはできそうだけど、配信だと完全に一人称的になるのが良かった。てかミナモばっか見てるじゃん……ミナモがキラキラして見えたよ、、、
ミナモもいい名前ですよね……新しいことをたくさん知ってキラキラ輝くミナモ。ヒダリメの水鏡のようなミナモ。
田村さんのこと、去年ちょうどシアタークリエのLLLで初めて拝見したのですが、けだるくてむちゃくちゃかっこよくてすごく素敵だったんですよね……木村さんとのお芝居をこんなにほわほわした雰囲気で見られるとは……もっと色々見たい……



● 歌って踊るヒダリメ
「歌うんかーーーーい」「しかも舞台上がるんかーーーーい」と「そう来なくっちゃね!!!!!!」という相反する感情が同時に湧いた。
歌って踊るヒダリメとても可愛い。楽しそうで生き生きしてる。
キラキラしてるヒダリメとミナモのダンスがとても可愛い……手を伸ばしてくるくる回るとこめっちゃ可愛い……二人とも回るのが似合う。
木村さんまた歌とダンスが上達していてすごい。公演は中止になったけど、確かにリフと公生を経験したのだろうと感じられる……
木村さんの射るような高音本当に好きだな〜「呼ぶんだー」で裏声に上がるのも好きだし、ガールズバンドに混ざって歌う推しとか考えたことなかったけど最高だな……
あと編曲がとても好き。木村さんをこのキーにしてくれてありがとうございます……それにしてもこの短期間で脚本から何から、1ヶ月で全部作ったのほんとすごい。


全然関係ないけど、大サビの前で木村さんと妃海さんが後ろ向いて両手を挙げた時
「バク転する!?」と思ってしまった。あのタイミングでの後ろ向きはV6なら台宙するやつ。(危ない)



● 「この拍手を贈るよ」
舞台上でこの拍手を贈るよ と歌っている時に客席が映ったのには込み上げてくるものがありました。
空席の客席がこんなに万感の思いを伴ってカメラに抜かれることなんてそうそうないよ……



● クラップで完成する物語
『CALL』のサビ、「君の名前呼ぶんだ」を繰り返した後の「テンテンテレン テンテンテテンテン」ってメロディ、
歌詞がなく音だけだったところに雄弁なミズハシクラップが乗ってくるのがとても好き。空白にクラップが乗って完成するって、まさに最後の拍手で完成する演劇と同じで。
歌い終わってお辞儀する時の静寂がそれを物語っていたというか……拍手がない、あの寂寥感こそがこの話の「結末」だなあと。




● 「感謝を伝えたくて」
そしてここに戻ってくる。
ヒダリメはなぜミナモに拍手をしたのか、その問いに対して「どうしてだろう、」と一度自問するのは、理屈じゃなく自然と湧き上がった行為だからなんですよね。
そして、それを言葉にするなら、「感謝を伝えたくて」。
ほんとそうなんですよね……感謝伝えさせてよ〜〜〜〜!!
とても良かったのに、ほっこりと元気をもらったのに、
家からじゃ拍手の音、届かないよ〜〜〜!!



……と思ったけど、ヒダリメみたいにクラップが星になるなら、もしかしたら想いは劇場にも届いていたかなあなんてメルヘンなことを考えて、感想、終わり。


メルヘンだけれどわりと切実な、祈りのような拍手を『CALL』に。