王様の耳はロバの耳

言いたいけど言えないからここにうずめる

ミュージカル『エリザベート』感想メモ(8/22)


「達成、ルドルフやりなよ!」



そう言って、『NARUTO』で共演した悠未ひろさんが「闇が広がる」を教えてくれた。


というエピソードを初めて聞いた時、
私の中でジャジャーンとひとつ木村さんの未来像が生まれました。
あの帝国劇場で、あの『エリザベート』に出演し、あのルドルフ役をまっとうする!!
……そんな日がいつか来るのかな!?




、、、あれから2、3年。
実際のエピソードの時からは4年くらいかな?(全部曖昧か)
木村さんのことを見くびっていたわけではまったくないつもりだったのですが、
「そんな日」は想像していたよりずっと早く訪れました。



先日、8/22の『エリザベート』マチネを観劇したのですが、もう終始
「えっルドルフめちゃくちゃいいんだけど…!? 最高なんだけど……!?!? えっ木村達成さんっておっしゃるんですか……!? えっファンクラブ入ろうかな……!?」
って思ってました。
うっかりもう一度ファンクラブ入るところだった。
このくだり、舞台に立つ木村さんを見るたびに繰り返してるんですけど、だっていつも新しいんだもんなーーー!!
6月も7月も最高だったけど8月とっても最高だったよーーー!!
本当に、悠未ひろさん……ありがとうございます……。


8/25のソワレまであと3公演、さらに進化するのでしょうけど、それをどうにか見届けたい気持ちはあったけれども、
でも、とっても清々しい見納めでした。
めちゃくちゃ良かったなーーー!!


以下、ざっくりですが感想です。
3回目にして今まで見えてなかったものも見えてきました。



6月の感想はこちら
7月の感想はこちら
ルドルフの楽曲が最高という話はこちら




● ルドルフ


・我ら息絶えし者ども
ダンスの手さばきがすごい綺麗。びっくり!
指先まで細やかに語る手と、腕の使い方と、あと背中!!
ダンスはここだけじゃなくて、独立運動もマイヤーリンクもとっても良かった。とにかく手が優雅で雄弁。そして背中の伸ばし方と反らし方が絶妙。
あの冒頭で頭からかぶってるお召し物がこの時ばかりは羽衣に見えました。天女? 天女かな?


あと歌も譜割り難しいのに(私感です)走らなくてすごいなーと思いました。これは「僕はママの鏡だから」の最初の方もそう! 私はトロイメライの拍子もすぐわからなくなるんで……尊敬しかない……



・父と息子、憎しみ(HASS)
「よく見てください!」が本当に見てほしそうで私もフランツに見てほしくなりました。
そのあとフランツが演説者を見て「誰だ?」って聞いたことに過敏に反応して、「(はっ興味を示した! 今だ! この機を逃すな!!)シェーネラー!! ドイツ民族主義者です!!!」って勢いよく手で指し示す感じだったのすごい良かった。
ここのふたつの言葉の必死さに、彼がちゃんと自身の目で市井の人々を見た実感がこもっている。ルドルフはフランツにその目で、「国」じゃなくて国民を、人々の表情を見てほしいんだなと。
HASS中もルドルフはなんとかしなければという顔で市民たちに触れて止めようしたりもしていて、案じるばかりでなく結構具体的な行動に出る人だとわかるので、独立運動に身を投じるのも唐突感がなかったです。



・闇が広がる(リプライズ)
井上さんトートは表情があまり変わらない分、ものすごい内圧を感じるんですよね……なんかだんだん「ひょっとしてこれは彼なりの『頑張れ』なのでは? こういうやり方しか知らないのでは?」とも思えてきて。これでもかと焚きつけてくる彼に、弱いながらも起き上がり小法師のように応える木村さんのルドルフが見ごたえありました。役同士の会話の上に役者さん同士の会話があるような気がしたり。
そして「我慢できない」の我慢できなさ具合最高に良かったです。「で」にすごい力が込められていた。「王座」もパーンと入って気持ちが良かった。また覚醒した目がいいんですよね。


あとこれは何度でも言いたい(もとはこちら)んですけど、私は「革命の歌に踊る」というところをひそかに推してまして、
頭の「かく」という明瞭な響きが最高だし、「かく めい」という響きの硬さ(かく)と柔らかさ(めい)の対照性が最高だし、「歌に」の「う」で音が上がり弾けるような「た」が続くことで「うた」という言葉の美しい響きが彗星の如く現れる感じが最高。しかもそれら清音のきらめきが最後「踊る」という濁音の世界に収斂されてしまうのが最高の高。
と思ってたんですけど、
この日の木村さんの「革命の歌に踊る」めっっっちゃ良くて、「それそれーーー!!!!」ってなりました。朗々とした発音が語感にゆったりとした空間的豊かさをもたらしていて、推しが推しを最高に輝かせてくれてました。木村さんありがとう……!! 木村さんのカ行の発音本当に好き。


6月に比べて歌声がよく響いていて、歌に感情を「のせる」だけじゃなくて「含める」ことのできそうなふくよかさが感じられました。
6月、「伸び代いっぱいある!!」って思ったのにもうその伸び代伸び切って次の伸び代が見えていて、伸ばしたご本人も環境もめちゃくちゃすごいなと思いました……竹だよ……竹……1日で1メートル伸びるしなやかな竹……



独立運動
覚醒後のルドルフ、精悍な顔つきで声まで凛々しくてかっこいい。のですけど、度々迷いと弱さが顔を出していて、ここが少年時代のルドルフと、あと平方さんフランツを彷彿とさせて良かった。
特に、下に降りてきて逡巡……してからの、「今こそ」と振り返るところがキリッと雰囲気変わってすっごいかっこよかったです。感情の流れ的にもビジュアル的にも弱さあっての緩急だった。ここも目がいいんですよね。眼差し。あと背中の角度。


角度といえば王冠のところ、姿勢の美しさにさらに磨きがかかっていたのでは!!?!?
かなり後ろに膝をついてるんですかね? 肩から膝までまっすぐで、ルート( √ )のような美しさ。もはや無機的ですらある美しさ。シシィの美貌が政治に使われたことを思い出す。ここだけじゃないんですけど、今回初めて、シシィの息子だな、似てるなって思いました。


ハプスブルク……っ!」と姓を名乗った時の表情が、武士っぽいというか、生まれへの誇りと断絶の気配を感じさせて良かった。
この時点でもうこの先どうなるかわかってるような感じがあって、くずおれたまま父の方へ少し這いつくばるように寄ろうとしたけど行けなかったのが切なかった。
「父上……」はすごい普通のトーンだったんだけど、最初から何を言っても無駄だとわかっていたからかな、と思いました。



・僕はママの鏡だから
ママが来る前? にルドルフが目元を拭っていて、汗だったのかもしれないけど涙のように見えました。木村さん、泣いていても歌の言葉が明瞭に聞こえるのほんとすごいんだよなあ。
歌のはじめの方、メロディのドラマティックさがおさえられているので余計にママに訥々と話しかけている感じが出るなあと思うんですけど、
まず木村さんのお芝居が先行していて、あとから歌がついてきていたのがすごく好きです。


あと「打ち明けるよ」の言い方!! 語尾が上がって「打ち明けるよ?(心の準備はいい?)」みたいに聞こえて、すごい、ここへ来てママにそんな配慮をするのか、そんなに優しい子なのかルドルフは、と思いました。この言葉、自分(ルドルフ)のためのワンクッションだと思ってたけど、木村さんの言い方は完全にママのためのワンクッションに聞こえた。なんでこの言い方にしようと思ったんだろう……天才なのでは……?
そして「パパを説得できる」のところ、今度はシシィに対してパパのほうを手で指し示していたのがまた切実さがうかがえて良かったです。パパでもママでもいいから自分の見た現実を一緒に見てもらえたら良かったね、、、


「ママも僕を見捨てるんだね」、も、普通のトーンで、「やっぱりね」みたいな虚無感が漂っていた。
トートの「死にたいのか?」にすら「ああ……君か」みたいな反応で、このルドルフは最初からわりと死に近かったんじゃないか、という印象を受けました。



・マイヤーリンク (死の舞踏)
最初に書いた通りダンスが良かった。上半身のことばっかり書いてるけど脚もいいんだよなー! しっかりしてるっていうか、頼りになるっていうか。(?)
お芝居とダンスが融合しつつあって感動しました。ここも気持ちが先に立ってる感じがした。
あと今まで書くの忘れてたけど白シャツがとっても似合っています。


今回はひきがねを引く前に笑っていなくて、ほとんど表情が見えないくらいあっという間だったんですけど、そのことによって私の中でキスの後動かなかった数秒が強く印象に残ったまま消えなかったんですよね。
ルドルフの最期は、あの余韻の中だったんじゃないか、と思いました。前回はトートの余韻に浸っていたという印象だったけど、今回は「生きたこと」の余韻を感じていたような印象で。ひきがねを引くときにはもう心は此処になさそうに見えました。
吹っ飛ぶ頭からぱっと弾け飛ぶ汗は、やっぱり血に見えますね。やろうと思ってできることじゃないからすごい、、、



この日の木村さんのルドルフは、かなりド直球の、正統派の皇太子であったように感じました。
すごく見応えがあって大好きでした。


● 少年ルドルフ

・ママ、何処なの?
大橋くんのルドルフは、トートに対して最初警戒してるんだけど「来てあげる」って言われてすごく嬉しそうにするところがもう……用心深くて素直でまっすぐで……
成長後のルドルフにもそういうとこの面影があったなって思います。野心がなさそうなところも。


あと「ママ、ママ!」が突き刺さりすぎて胸が痛かったです。「ほんとごめん……早く帰るから……」って思ってしまった。純粋に求めてる感じなんですよね……こんな声で呼ばれてしまったら出掛けられない。


● トート

・愛のテーマ
歌は言わずもがななので……!! 井上さんのお芝居でむちゃくちゃにグッときたところについて。
エリザベートが亡くなる時、トートが抱きしめるシーンがあると思うんですけど、そこがすごく好きです……
トートは抱きしめることができてないんですよね……
さわっても大丈夫かな? 抱きしめても大丈夫かな? 壊れてしまうんじゃないか?
とおそるおそる手を回すのだけど、あまりに柔らかいものに触れたという感じで、それ以上力を入れられない。表情は変わらないけど、彼の戸惑いが手に取るようにわかる。
「うわー! ここで彼は初めて愛、生、体温を知ったんだ!」と気付きました。
彼は初めてエリザベートの体温に意味を感じて、死とはそれが奪われることだと気づいたんだけど、もう遅いっていう……
だから最後に彼はあんな顔をするんだ……ととっても合点がいきました。
井上さんのトート、黄泉の国と人間界の勝手が違うだけで、結構優しい人なんじゃないかって思えたりする瞬間もあったので、つらかったです……


● フランツ

エリザベート(愛のテーマ)
平方さんのフランツは、「誰かと分かり合えない悲しみ」が強くて、ほんとに最初から最後までそのことに苦しんでどこかで諦めている感じだった。そして迷いながらも場をおさめようとする。抱きしめたり、後ろを振り返らないようにしたりして。
彼の歌うこの曲では、シシィのことを優しい優しいと言っているのが強く耳に残って、「シシィってそんな優しいっけ……?」と思ったんですけど、いやゾフィーに育てられたフランツにとってシシィは本当に「優しい」のかもしれない……彼にとっての愛とはシシィそのものなのかもしれない……と思って切なくなりました。


エリザベート

・私が踊る時
愛希さんのシシィの勝ち誇った表情最高ですよね……! 特に流し目のところがすごい好きで。その目にルドルフとの血縁関係を感じました。
あと井上さんトートと愛希さんシシィだとそこまで龍虎相摶つ!! という感じではなくて、「生と死が並び立つ」という雰囲気を感じました。ここの愛希シシィは生の象徴みたいだった。



・死の嘆き
すごく「あっ」と思ったのが、シシィがルキーニに写真を撮られるところ。
花總さんシシィは顔を隠したまま逃げていくと思うんですけど、「こんな時ですら美醜に固執する」というところに私は花總さんのエリザベートの凄みを感じるんです。
一方で愛希シシィは、撮られた瞬間は隠すけれど、あとはとにかくこの場を去りたいという感じで顔は二の次になっていた。
ここがちょっと違うだけで、シシィがそこまでエゴイストじゃないように感じられるなあと。
愛希さんのシシィは、人間として当然の権利を追い求めていただけなのではないか、と思えるところがありました。



・夜のボート
「あなたが側にいれば」と同じメロディで、結局すれ違いっぱなしだった2人の心情が歌われる、シシィとフランツの物語の終わりを飾るような1曲。
今回の愛希シシィと平方フランツの組み合わせでは、フランツが愛を追い求めすぎている……と感じました。
「あなたが側にいれば」ではシシィが自由を追いかける理想主義者で、フランツが自由なんてないと知る現実主義者だったのに、
「夜のボート」ではフランツが愛(=シシィ)という幻想を追いかける理想主義者で、シシィが愛は全能ではないと知る現実主義者みたいになっていて、立場が完全に逆転していた。平方さんのフランツ、本当にすがれるものが愛しかなかった。そして彼にはもう場をおさめる気概もなくて、そのまま悪夢になだれこむっていう……
Wキャスト、トリプルキャストっていろんなところで化学反応が起きていて本当に面白いです……


● ルキーニ

・愛のテーマ
成河さんのルキーニは貼りついたような笑顔の仮面をつけたり外したり忙しい。彼が真顔で見つめている時、どんな気持ちでいるんだろうかと気になってしまう。母の陳情、精神病院、マダムヴォルフ。彼の許せなかったものが見える気がする。
彼が最後に首を吊る時、シシィがまっすぐ立ってる(寄りかかってる?)のと
ルキーニが首をつって伸びているのが体勢的に似ていて、
これはルキーニが牢獄の中で死を選ぶまでの、生と死のせめぎ合いの物語だったのかもしれないと思いました。


● カテコ

むかしむかしカーテンコールに 少年ルドルフ役の大橋くんと ルドルフ役の木村さんがおりました。
とつぜん 大橋くんが 木村さんの手を ぎゅっと握りました。
すると木村さんは とっても嬉しそうに 大橋くんの頭をなでました。
ふたりは仲良く手をつないで 客席に手をふっていました。
世界は平和につつまれました。
おしまい。
……いやもう泣けちゃうくらいハートフルウォーミングニコニコハッピーエンドでした……大橋くん……かわいいが溢れている……




● おわり

木村さんの突き進む姿と、エリザベートの物語に魅了されっぱなしの3ヶ月でした。
語り尽くすには言葉が足りなかった。
楽しかったー!
ありがとうございました。
おしまい。







※ 後日追記
木村さんのルドルフがどんなルドルフだったのかについて、たぶん私の感想では大事なことが書かれていない気がするので補足を…………
Twitter等では多くの方が「木村ルドルフはフランツに似ている」とおっしゃっていたことをここに記しておきます。
また、月刊『ミュージカル』 2019年7月・8月号に当時の木村さんのインタビューが掲載されており、その皆様の印象の一致は偶然ではないことが示唆されております。ご興味のある方は是非バックナンバーをお手に取ってみてください……
また、最期の「飛び散る汗が血飛沫のように見える」はご自身がそのように見えたらといいなと意図してやっていたことだとファンクラブイベントにてお話しされていたそうです。