王様の耳はロバの耳

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ハイステ “はじまりの巨人” 感想メモ(ネタバレあり)


先日、「ハイパープロジェクション演劇ハイキュー!! “はじまりの巨人”」を観劇しました。
「あっ、ハイステって、ハイステっていいね!!!?
と改めて思ったので感想メモ。


とても個人的な意見ですが、ハイステっていい意味でも悪い意味でも見てて戸惑うことの多い舞台な気がしていて、それが時として見にくさ受け入れ難さにつながることもあると思うんですけど、
今回は初演と同じくらい戸惑いが少なめで比較的見やすく感じました。
これ……未見の方がハイステを見始めるなら今なのでは……!?
6月17日のライビュに行く→ちょっといいかもと思う→8月の応援上映に行く→秋のハイステ“最強の場所”に行く
この流れ……完璧なのでは……!?!?





以下、ネタバレありです。



● 条善寺を、好きになる。

まず大きかったのはこれです!!!
条善寺とても良い。
条善寺 とても楽しい 条善寺。
なんか見ててすごい楽しい。
いや知ってるんです、漫画でそういうチームだって武田先生が言ってたから!
でも実際見て「本当に楽しい!!」って思わされてびっくりしましたよね、これが「舞台化」かって、これが「生身の人間がやるってこと」なのかって改めて思わされたというか。
目の前にその光景があって、空気を体感できるってすごいですねえ。
追い求めるべきはリアリティじゃなくて、ハッタリが生むリアルなんだ!!みたいな、よくわからない熱い気持ちが生まれました。


あとキャストさんのパフォーマンスはもちろんなんだけど、試合中何度か後ろに投影されてた「J」もダサ可愛くてとても好きでした。
条善寺カラーの補色的な紫、創英角ポップ的なフォント、そもそも「J」というイニシャル的な何か、とにかく絶妙にダサくて、それが映ってる時に烏養さんの「(条善寺の)センスの良さがわかるな!」みたいな台詞が発せられるもんだから「皮肉か!」と突っ込まずにはいられませんでした。
音楽の「ぼぉ〜ん」みたいな音と一緒にJ出てきた時とか最高にJだった。
条善寺にそんなJ要素あったっけ!?と思ったけど、見てて気が抜けるというか、肩の力も抜けて楽しさに繋がっててすごい良かったなあ。


終盤、条善寺が試合に引き込まれて、夢中になって、その姿に私も引き込まれて、夢中になって、魅了されてしまった。
試合が終わって、船木さん演じる照島君が言うんですよね、「終わりかよくそ、せっかくテンションアガってんのに」って。
私「ほんとそれ!!!!!」
あの時パッと浮かんだ「えーもう終わり?」って感情、とてもリアルでした。



● 条善寺キャストを、好きになる。

そんな条善寺ロスの私に救いの手が!
条善寺キャストあらため和久南名物家族応援団!!
応援方法をレクチャーしてくれるキャストのみなさん、おしゃべりも達者ですごい。
特に好きだったのがお母さん役の荒田さんの喋り方。
「とっても簡単よ」
「恥ずかしがらないで」
「3階サボってるの見えるわよ」
邪魔にならず埋もれない声、さりげないタイミング、流れるような言い方とリズム感、あとお母さん感、すごかった。
条善寺と家族応援団とハイステのそれぞれが持つ「ガチャガチャした感じ」が彼らの中で綺麗に融合していて見事でした。



● 「名乗り」の良さを思い知る

場面は戻って、オープニングですよね!!!!!
第二章が始まった感がすごい。
運命の環が再び回り始める感がすごい。
かつて日向と影山が対峙していたあの光の輪の中で、今度は日向と影山が並んでウシワカと対峙しているしかもあの初演と同じテーマソングでってあつすぎる!!!!


あと「っょぃ」と思ったのが後ろにどでかく流れていった「ハイパープロジェクション演劇ハイキュー!! “はじまりの巨人”」の文字です。
普通にタイトルロゴがばーんと表示されるだけなら多分ちらっと見るだけで済ませてたんですけど、
今回、右から左にゆっくり一文字ずつスクロールしてくるから「ハ イ パ ア プ ロ ジェ ク ショ ン……」みたいな感じで一文字一文字心の中で音にして読んじゃったんですよね。なんだか「近くば寄って目にも見よ」みたいな気迫を感じて、
この、あえて、今、タイトルを突きつけてくる感じがなにかの最終回の名乗りとかコンサートの終わりの名乗りとかみたいで燃えました。
名乗られなくても知ってるんだけど、知ってて見てるんだけど、知ってるからこそ、あえて名乗ることのすごさも知ってるみたいな。
そこに覚悟とプライドを感じるのですよね。あっこれ、「コンクリート出身 日向翔陽です」に近いのかも。


ていうか有田さんのウシワカー!!
スパイクかっこいいですねえ……空中で一瞬止まってない?白鳥沢戦楽しみだなあ…



● 街

いつも、日向が街を走るシーンが好きなんですよねえ。
最初は一人で。烏野復活では影山と。進化の夏では谷地さんと。今回は烏野全員で。
体育館の中だけじゃなくて街に、雑踏の中に生きている彼ら、っていうのを思い出させてくれて、密閉空間の中から飛び出して今私たちが生きている世界にまで繋がるかもしれない広がり、地続き感を持たせてくれる。


そしてそのバックに流れている音楽もいつも好きで、というかハイステで流れている音楽は全部好きで、今回も音楽にたくさん泣かされました。ちょこっとモチーフが入ってくるだけで過去作品の該当シーンを思い出しますよね、「鉄壁でも持ってこい」の台詞のとことかね。


そういえば今回ギターにストリングスにズンズンいって若干ラップ、みたいな曲があってびっくりしました。和久南や根性無しのシーンで流れてたと思うんですけど、雰囲気でいったら全然そぐわない感じなのにすごいよかったなー。
こういう曲が入ってくることがそれこそハイステと観客の地続き感、同時代感を生んでいるというか……
なんだか和田さんの音楽ののったハイステを見ていると、烏野の「雑食」ってこんな感じかなと思ったりします。
既成概念にとらわれない、アウトプットの豊かさ(とその何万倍であろうインプットの豊かさ)。
「和田さんは天才」って毎回言ってるけど何度言っても足りない。和田さんは天才!!!



● 変わるということ

田中さんのスガさんめっちゃ完成度高くてびっくりしました。セリフとダンスのキレが抜群。
最初、開演からしばらくは、スガさんが喋ってるってわからなくて、あー、私いままで猪野さんの声を辿ってスガさんを見つけてたんだって知りました。猪野さんの声と素っ頓狂さと優しさは本当に私の中のスガさんと完全一致してたから…!!


田中さんの大地さん、久々に見たけどほんと目と耳を疑うくらいまじ大地さん…人生5周目くらいの大地さん。
秋沢さんの大地さんは、大地さんも最初から安定の主将だったわけじゃなくて1,2年生と同じように成長してきてて今もこれからも絶賛成長中なんだって、私が忘れていた当たり前のことを教えてくれました。彼の大地さんは若さを背負っていた。


渕野さんのノヤさん、塩田さんの田中さんと息ぴったりで見てて気持ちがよかった!
ノヤさんいつもかっこいいけど、少しだけ愁いを帯びる橋本さんのノヤさんの叫びも好きだったなあ。橋本さんって、舞台上の佇まいに独特のエモさ、情緒があるなあと思います。それが不思議と「舞台版」ノヤさんにマッチしてて。


影山さんの影山、照島君が「頭カタそうな顔してるくせにホンット滅茶苦茶な攻撃してきやがるセッター」と評するんですけど、「それだー!!!」ってなりました。影山さんの影山は一見真面目そうな堅物に見えるんですよね。だから日向との速攻のトンデモ感が増し増しで映える。セオリー通りに行かないことの意外性がより大きくなる。
木村さんの影山は、なんとなく「コイツなんかすごいことやってきそう」感があって、だからこそ王様というモチーフがぴったりだったなあと思うんですけど、
影山さんの影山は少し隙があって、でもこういう影山もたしかにいると思いました。「実は影山もボケ」みたいなところも滲み出てて可愛い。


あと私、前作の木葉さんすごい好きなんですけど、今回木兎さんやってたのが木葉さん役の東さんだったと知って驚きました。全然わからなかった!
東さんの木兎さん、木兎みがあふれてすごい良かった。あの木兎みは尋常じゃない。吉本さんの木兎さんも絶好調としょぼくれのギャップが可愛らしくて好きです。
結木さんの赤葦さんは血の通ってない感じがする瞬間があったりしてめちゃめちゃ期待通りだったんですけど、
今回の高﨑さんの赤葦さん、すごい、執事っぽさがすごい。今まで赤葦さんのことそんな目で見てなかったけど、言われてみればそんな存在な気がしてくる……木兎ぼっちゃまの執事……新たな知見を得ました。



キャストが変わるって、こうやってキャラクターたちの見えてなかった一面に気づくことができたり、もともと好きなところをさらに補強してくれたり、面白いなあと思いました。キャラクターのスペクトルを可視化してもらったみたい。
たまに寂寥感が一筋の風のように吹き抜けるのも、それはそれで、いいのかなって。



● 中島君

中島君という役は、これまでその存在が大々的に語られることがなかったにもかかわらず、「小さな巨人」というこの作品にとって大きな看板を背負って唐突に登場する、という、すごく難しい役どころだなあと思ったんですけど……
なんというか、観客が中島君にまだ思い入れがない段階から小さな巨人という言葉を振りかざしたら、下手したらアンバランスさにキャラクターが吹っ飛んじゃうんじゃないかみたいな。


でも全然そんなことなかったです。柳原さんの安定感がすごかった。どっしりとして、須賀さん演じる日向と向き合ってもまったく遜色なくて、今更だけど「役者さんの演技が確か」ってほんとにすごくありがたいことなんだなと思いました。


特に!!特に目の覚めるような思いだったのが後半、月島にキルブロックを決められたところ。
あのキルブロックの演出、進化の夏の時は「killと斬るがかかってんのかー!」とか「ネットの網目を障子の組子に見立ててんのかー!!」「必殺シリーズ風の演出カッケーな!!」とか、「ブロックの比喩表現」としか見てなかったんですけど、
今回中島君が斬られて膝をつく姿を見て思いました。ああこれ、「ブロックされる側の心情表現」でもあるのか、と。今更ながら。
烏野10番を倒して行く、と発奮した矢先に別の人に叩き落とされるって、その心情を喩えるならまさにあんな感じなんだろうなって。短いアクションだけど、鮮烈でした。


和久南、キャストさんのダンスの揃い方や仕草で仲間の頼もしさが感じられたのに加えて、なんだか今までで一番「部活の集団」という感じがしました。
奇をてらわず、真面目にやってきた彼らがなぜ負けるのか?とちょっと考えてしまう、堅実な良いチームでした。



● 変わらないということ

中島君のような坊主の男の子を見ると思い出すんですけど、昔、友達に見せてもらった映像で坊主の男の子が赤いユニフォームを着てラケット持って歌って踊ってて、「うわー、安定してるなー、うまいなー、若いのにすごいなー!!」と、とてもワクワクしたんですよね。
インパクトの強い歌だったこともあって記憶に残っているんです。
川原一馬さんって言うんですけど。


だからハイステ初演をDVDで見た時、「あのひとだ!!」と思いました。
大人になっていてもやっぱりお芝居が上手くて、むしろさらに磨きがかかっていて、だからこそ「舞台版」の縁下さん役なのだと思ったし、だからこそハイキューを演劇にするためのバランサーになっているのかなと思ったりもしました。
でもその時はハイステが春高予選までやってくれて、かつ川原さんがここまで縁下さんをやってくれているとは想像していなかったので。



すごいことだな、と。




実際に川原さんの演じる“根性無しの戦い”を目の当たりにして、
知ってたんだけど、知ってて見てたんだけど、知っててもなお、
なんてなんてこの人はお芝居が上手なんだろうと思いました。


あんなに胸に迫ってくる沈黙、あるんだなあ。
スクリーンに映ったアップの顔を、あんなに固唾を飲んで見守ってしまったの初めてかもしれない。
ふっと息を吐く、その微かな音のなんと雄弁なことか。


「鏡」って無茶苦茶舞台映えする、ここぞの時のための小道具、舞台装置のような気がするんですけど、
最終的に縁下さんのトイレのシーンに収束した時、そうかこのシーンを川原さんが演じるなら、今作ほど適切な鏡の使いどころはないよなと思いました。
(書いてて自信なくなってきたんですけど、鏡ありましたよね…?なかったらすみません…)


私が見た公演のカテコの挨拶で、山口役の三浦さんがこんなことをおっしゃっていて。
「今回、『根性無しの戦い』というのもテーマにあると思っていて、縁下役の川原さんと、観ている方々に一番近い存在であるということを意識しようね、と二人で話していました」と。
本当に、彼らの葛藤はまったく他人事に思えなくて、心情的にゼロ距離すぎて、縁下さんが戦いを終えた時は私まで解放されたような思いがしました。
カテコでは川原さんの登場の際に拍手がひときわ大きくなって。
私も、感動、賞賛、そしてありったけの感謝の気持ちを拍手に込めました。



キャストさんが変わった時に、どうしてもリセットされてしまうのが役者さんと観客の上に降り積もった思い出で、
これは誰がどう努力しても補いようのないものだと思うんですけど、
初演から出続けてくださっている川原さんはお芝居の上手さに加えてこれ(思い出)をフルで持っていたもんだから、
なんだかもう私は泣くしかなかったです。



次作、感慨深すぎて早くも泣きそう。