王様の耳はロバの耳

言いたいけど言えないからここにうずめる

ハイステ前作のメインテーマについて書く

“負け”は
弱さの証明ですか?
──『ハイキュー!!』8巻より


最近電車の中でもっぱらアニメ『ハイキュー!!』と演劇『ハイキュー!!』のサントラを交互に聴いて泣きそうになるのをこらえるっていう合理性に欠ける行動を繰り返してるんですけど、
いよいよハイステの新作公演まであとわずかということでなぜかこのタイミングでハイステ前作のメインテーマについて書きたいと思います。


そのことによって!!!木村さんのファンクラブイベントに落選したかなしみから!!!目をそらす!!!
(それにしてもさすがの人気でした…!すごい!!)





何度でも何度でも同じこと書くんですけど、ハイステのオープニングは最高なんですよ!!(1024回目)
原作を投影する演出も、俳優さんのキャラクター性も、ノスタルジーを感じさせる効果音も、全てがそこにあったかのように重なり合ってひとつのプログラムに仕上がっている。
そしてその土台となっているのが音楽
ハイキュー!! 〜ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」Main Theme〜』です。



以前のエントリーでは、この音楽について以下のような感想を書きました。
・仁花ちゃんのポスターに似ている
・日向が「飛んだ…!」と感じたところから、着地するまでのほんの一瞬を切り取った音楽のよう
・日向を観ている人の心象風景なのかも


その思いは今も変わってないんですが、ここのところアニメのメインテーマと聴き比べていたら「それだけじゃないな」、と。観ている側だけじゃない。やっぱり「やっている側」、つまり当事者の心象もあるよなと感じまして。



なんでそう思ったかというと、演劇版のメインテーマには救いがない気がするんです。救いって何かって、明るさとかコミカルさとかみたいな、空気を少し逃して音楽の圧を下げるような要素でしょうか………唯一、冒頭のクラップ音くらいかなと思ってます。それ以外はもうずっと、息抜きも忘れて真っ向勝負で正面突破し続けるみたいな感じでものすごく「真面目」な曲なんですよね。


逆にアニメ版の方は比較的明るくて伸びやかで、爽やかさや眩しいところ、キュッと切ないところもあって。全体的に開放感や何かが報われそうな希望があるんです。


この差は面白いなぁと思っていて、これは青春に対する距離感の違いから来ているものではないかと。
アニメ版のほうは、青春を振り返って捉え直しているようなスタンスに聞こえるんです。私たちにもこんなことあったよね、つらいこともあったけど、今思えば楽しかったねって。なんか他の人に比べて話しかけやすくて相談したら「大丈夫」って言ってくれる優しいOBの先輩みたいな。
それに対して演劇版は、今まさしく青春してる人たちの感覚で、「青春してるわぁ」なんてみじんも思ってないような当事者たちの、辛くて苦しくてでも魅了されて無我夢中になっているさなかの心象風景。そして同時に、その姿に引き込まれて青春のしんどさを思い出した大人たちの心象風景でもある。


原作の台詞でいうなら、アニメ版の距離感は町内会戦後のOBたちの「いや〜よくわかんないけど青春だったな〜」「高校生かっけえ!」「俺らオッサン組のおいてけぼり感ときたら!」ってやつ。あとは山口の練習につきあうマートさんとか。茶化しつつ、温かく見守りつつ、作品に客観性を持たせつつ、ちょっとだけ感化されながら、日向たちが青春真っ只中にいることの価値を高めてる。


じゃあ演劇版は、というと、まさにこれなんです。

負けた時にさ
「いい試合だったよ」って言われんのが
嫌いだったよ
「でも負けたじゃん」ってさ

けど いざ 声掛ける側になった時
それ以外に妥当な言葉ってわかんねぇもんだな



青春には痛みが伴うこと、その痛みは幸か不幸かもう自分たちとは遠くにあること、を思い出させてくれる、滝ノ上さんの真摯な言葉です。



以前のエントリーで書いた「根幹」を感じたのは多分ここの部分だったんだろうな、と思います。
曲中何度も繰り返されるモチーフに、逆境の中でも不利でも負けても歯を食いしばって戦い続ける姿と、それを観ているもう戦えない側の人たち(または望んでいた場所とは違うところで戦っている人たち)を私は連想したんだろうなぁと。


個人的に、ハイキューはその両方の意味での敗者たちを描いた作品だと思っているので、音楽が率先してその部分を掬い上げていたことに胸を打たれていたような気がします。
主人公が負けたところから始まるこの音楽は、敗者たちのその先にあるものを示してくれている。その頂点が多分、重力に打ち克って“飛ぶ”瞬間なんだろうな。




アニメ版は30分×25回と長丁場なので、ずっと真剣じゃつらいし絶対に救いと距離感があるべきなんですけど、
2時間半、生、メインテーマがかかっても数回、の演劇ならこの息の詰まるような距離まで迫って青春の臨場感を再現するのはすごく有効だよなーーー、と思いました。


そんできっとこの青春と音楽との距離感は、ハイステの舞台と客席との距離感に限りなく近いような気がしていて
今度初めてハイステを生で観る私は、この曲にあるような憧憬と羨望の眼差しを持って舞台上の彼らを、木村達成さんを観ているんじゃないかなあという予感がしています。



たのしみ!!!!




劇場で観られるのは1公演だけなので、しっかりと目に焼き付けなければ。
新作でこのメインテーマが使われるのかアレンジされるのか全く新しいテーマになるのかどれかなーーー、わくわくするなーーー。