王様の耳はロバの耳

言いたいけど言えないからここにうずめる

NHKドラマの岡田将生さんがすごいことになってる噺

「イケメン俳優」ってのは
なかなかにつらい稼業でございまして、
コケれば「やっぱり」
当たれば「たまたま」
ブレイクした日にゃ「のぼせるな」、
まして漫画アニメの実写なんざ出ようものなら
「やめてよして」の大合唱にございます。



ところが昨今、
そんなそしりをそっと宥めるような
えらいドラマがありまして。






えっタイトル?







タイトルはほら、
あのーーーほら……アレです、




NHKのーーー、
金曜夜10時からやってるーーーー、
岡田将生さん主演のーーーーー、
あーー!ここまで出てるのに出てこない。




しょうがないからタイトル出るまで
もう少しお付き合いくださいね。
えっいやだ?
そんなあなたは
金曜10時にNHKをつけてみてください、
たぶんアバンの後に
タイトルが出るんじゃないかと思います。



聞いてくれる方はもう少し。


このドラマはね、
とにかく主演の岡田将生さんが
ものすごいんですよ。
なんでかってね、
主人公の八雲さんって落語家さんをね、
青年期からおじいさんになるまで
ずーっと岡田さんが演じているんですよ。



若い頃はともかく、
おじいさんになってからを演じるのは
難儀なことでしょう。
だって岡田さんまだ29歳ですよ。
私も第一話を見て驚きましたよ。
ご年配のメイクを施した岡田さんが、
そんなに歳の変わらない竜星涼さん(25)を
小僧っ子扱いしてるんですからね。
「いやこんなの間が持たないだろ」
って普通に思いましたね、
だって29って30にもなってないですからね。



ところがね。
これが不思議なもんで、
なぜだかすぐに気にならなくなったんです。
まだまだ若いはずの岡田さんが、
お年を召された八雲さんに見えるんですよ。
なんでだと思います?





「岡田さんのおじいさん演技がうまいから」、
まずはそれにつきます。
きめ細かな特殊メイクを真実のものにする、
岡田さんの緩慢な動き。
「老いとは何か」、その定義について
こちらも思わず考えてしまう。
この演技は本当に見ものです。
そして、ここにはまた別の仕掛けもありそうで。



私が思うにね、
八雲さんは、
「どこかで時間が止まってしまった人」なんですよね。
歳は取っているけど、
時代は過ぎているけれど、
彼の中の時計は止まっている。




だから、「おじいさん」を「若者」が演じているという小さな違和感が
そのまま八雲さんの「見た目」と「中身」のアンバランスさとなって
滲み出ているんですよね。



これは一種の暗喩でもある。



青年期を演じた役者に
老年期まで続投させるというのはよくあることだけれども、
そのキャスティングがここまでカチリッとはまるのは
見ていてたいそう気持ちがいいものです。




第二話からは回想に入りましてね、
八雲さんの幼少期から壮年期までの人生が語られるんですがね。
青年期の八雲さんがこれまた大変に美しい。


どのくらい美しいかっていうと、そりゃあもう
「有楽亭八雲 岡田 美しい」
で画像検索してもらうとよくわかりますね。



さてここでいう「美しさ」とは、
容姿だけに限ったことではございません。
立ち居振る舞い、仕草、視線、
そのひとつひとつに隙がない。
美しい八雲で在ろうと自身を律している、
その内向的な縛りに「品(ひん)」が宿っているんですね。




これが劇中で彼のやる「落語」にも
大きな影響を与えていて、
なんとまあその発される声の、
艶やかなこと。



正直言うと、私、
少し見くびっていたのですね。
風貌は完璧かもしれない、
だけども落語のシーンは
それなりでしかないだろうと。
芸では八雲さんに近づけないだろうと。
しかもアニメ版石田彰さんだぞと。
アニメ版、石田彰、さんだぞと。





いや知ってました?
岡田さん、むちゃくちゃ
か細い声が出るんですよ。



言われてみればこれまでも
たまに素っ頓狂な声出してた気はしますけどもね、
でもそれがね、
こんなに巧みに操られた声技になるとは思わなんだ。




落語家として上手いというのとは違うかもしれない、
けれども、
役者としての意地と凄みがそこにはある。
ドラマで有楽亭八雲を演じているのは自分なんだと、
睨め付けて譲らない心根の強さが見える。






岡田将生さんがこんなに役を愛する役者さんだなんて、
知りませんでしたよ。






さて、回想は第六話で終わり、
第七話からは再び六十代の八雲さんが現れます。
ここでこの作品への驚きを新たにしてくれたのが
竜星涼さん(25)の本格的な登場なんですね。




彼は刑務所帰りにそのまま八雲に弟子入りを志願するという、
元チンピラの与太郎役を演じています。
またこの与太郎が実に与太郎でしてね。
与太郎与太郎、まあ見事な与太郎具合なんです。



少し話があっちゃこっちゃしますがね、
実はこの作品、ここまでの回想で
山崎育三郎さん演じる有楽亭助六という
もう一人の落語家が出てきていましてね。


八雲の親友でありライバルである彼は、
繊細な八雲とは正反対の性格、
言ってみれば「根明」なんでございまして。
その彼の人ったらしな落語がまたうまい。
山崎さんの才能は
こういう方向でも活かされるのか、
と思わず唸ること三度。




一方、与太郎与太郎でまた「根明」なんですね。



「根暗」な八雲さんに縁のあるこの「根明」二人、
同じ根明でも微妙に違う。
助六がどこか危うさを抱える
「一寸先は闇落ち」タイプの根明なら、
与太郎は何があっても光属性、
「石橋を叩いて踊る」タイプの根明なんです。




似ているようでどこか違う、
そんな助六与太郎の「差分」を、
山崎さんと竜星さんは二人で
見事に表現してしまっている。
与太郎が動けば動くほど、
助六という人物の輪郭がより鮮やかになる。




第六話、回想の中で山崎さんは
これ以上ないであろうという
助六の「芝浜」を披露してくれます。
本当に素晴らしかった。



その「芝浜」を、
第八話で与太郎が受け継ぐ。
そんなシーンで、
斜めに見ていたこちらが
ぐうの音も出ないような
あの台詞の言い方。




うまい、うますぎる。
役者も演出もうますぎる。






第八話まで見てきましたけれどもね、
もう本当に、
山崎さん、岡田さん、竜星さんの
三つ巴。
それこそ助六、八雲、与太郎のように
三者三様、全員が輝いている。





そしてその中でもやはり、
主演として、
ひとりの人間の青年期から老年期までを
生き抜こうとする岡田さんの佇まいには
目を見張るものがあります。










……いや、ほんとのところ、
私、少し大袈裟に言ってるかもしれません。
ちょっと大仰かも。


でもこのドラマを見てるとね、
これくらい諸手を挙げて絶賛したくなるんですよ。
なんででしょうね、わからないけど、
この岡田さんの挑戦は、
なんとなくもっと誰かに見てほしいって思ってしまうんですよね。




もし自分が岡田さんのファンだったら、
これって贔屓目に見てるだけかしらなんて
思ったかもしれませんけどね、
私は岡田は岡田でも
V6のほうの岡田さんのファンなんで、
もう堂々と言ってしまいます。



このドラマの岡田将生さんはとても良い!!!








ここまで読んでくださったあなた、
ありがとうございます。
いや、ドラマ見てくださいなんてことは言いません、
ただ岡田将生さんがすごいよってことを言いたかっただけなんです。



少々長くなってしまいましたので
私の感想はこの辺で。
原作を尊重し、
ろくでもない改変もなく、
落語を「演じる」ということに
真摯に向き合った作品です。
充分すぎるほど満足な「実写化」でした。






それにしても結局タイトル思い出せませんでしたね。
なんだったかなー、
しょう、しょう……
え?縦?微妙な縦読み?上の文?
「少々長く……」
いやそんな回りくどいことしても何も面白くないですね。



NHK総合 毎週金曜夜10時から、
昭和元禄落語心中』、
残り二話ですが
どうぞお見知りおきを!