王様の耳はロバの耳

言いたいけど言えないからここにうずめる

舞台『魔界転生』感想メモ

先日、日本テレビ開局65年記念舞台『魔界転生』を観たので感想を書きます。



● はじめに

「刺さる」か「刺さらない」かで言えば、私には「刺さらない」作品でした。
にもかかわらず、4時間飽きずに観ることができまして。あらためて4時間て!休憩を抜かしても3時間半。3時間半あったら結構色んなことできたな〜とかそういうの微塵も思わなかった。本当にすごい。


いつも、自分の好み心底どんぴしゃみたいな作品に出会えた時は帰り道もずっと「ヒャッホー!」で、
そうじゃなかった時はすぱっと「自分には合わなかったな!」で終わる感じなのですが、


この作品はどちらでもありませんでした。
「合う合わないについて考えてたことをいつの間にか忘れてた」。
こういう冗談は苦手だな、とか色々拒否反応もあったんですけど、それでも「あっ」と思ったところから知らないうちに心掴まれ最後はスタンディングオベーションですよ。



距離感のある人間の心も置き去らず、くるっと巻き込んで一緒にエンディングまで連れて行く、それってほんと難しいことのような気がするんです。
老若男女問わず、好み問わず、慣れ不慣れ問わず、大きな作品で幅広い客層の期待に応えるってこういうことなのだなあ、と感嘆しました。



以下、特に強く印象に残ったシーンや登場人物についてメモ。
ネタバレありです。ご了承ください。






● お品さんと淀殿のシーン

もーーー!!ここ!!!!高岡早紀さんと浅野ゆう子さんが本当に素晴らしい!!!!
私、「動いてないのに全く棒立ちに見えない演技」が大好きなんですけど、あのお品さんにはほんともう心の中で事前スタオベしてましたね……ブラボー!!!!
そして淀殿のあの表情声仕草!!!!むちゃくちゃ納得感のある変化!!!!泣く!!!
気の強いおなごじゃの→私もすぐに行きます覚悟なさりませ、みたいな流れのところ、すっごい好きでした。



根津甚八さん

私が一番最初に「あっ」と思わされたのが甚八さんの初登場シーンでした。
最初村井さんだと気づかなくて劇団出身の役者さんかと思ったんですけど、なんか心の眼鏡を拭いてよく見たら村井さんだった。
あの安定感ーーー、もはやベテランの域ーーー本当に上手いーーーーすごいーーーー。
甚八さんがよく喋るシーンが終わると、ふうっと息をついてしまって、それで「あっ私今引き込まれてた」って気づく感じでした。めちゃくちゃ上手い人のミスチル一曲聴いたみたいな疲労感。
もはや台詞回しというより節回しですよね、村井さんの甚八さんには半端ないグルーヴを感じました。
あとこういう方が職場にいたらめっちゃありがたいと思った。又十郎のことちょいちょい気にかけててね……さりげなく「しっかりしないと」みたいに励ましたりしててね……優しい……
魔界衆チームに甚八さんがいたら四郎ももうちょっと楽だったと思う。



天草四郎

カーテンコールの時の溝端さんめっちゃ流し目で妖艶だった!!!!
でも本編では意外にもそういった人物造形ではなくて、ただひたすらに、普通の青年で。
二度も担ぎ上げられてしまったその姿、同情というかなんだろう、「がんばって……」みたいな。
なんかもう「扱いにくい方々だ」あたりのあれ、適切なフォローもバックアップもなくいきなり大きなプロジェクト任されてる入社2年目の正社員さんのそれだよね……入浴剤とか入れてゆっくりお風呂につかってほしいよ……デスクの上に「おつかれさま!」って書いたキットカットでも置いときたいよ……ていうかちゃんとおうちに帰って……
最後の方、階段のセットが出てきたので「これはやはり階段落ち!?」と思わせて結局しないじゃないですか。そこがほんともうこの作品の天草四郎の解釈のあらわれみたいでー!!!!!
溝端さんの漂わせる悲哀、厭世、「本人は『ただの人』と思っているかもしれないけれど『祭り上げられるほどの何かが間違いなくある人』」の絶妙なオーラ加減、とっても良かったです。



柳生宗矩魔界転生して奥から走ってくるシーン

最高でしたよね。
花火バーって出てきてうわーーやっぱり火の演出ってかっこいいな!ってテンション上がったところにさらに髑髏柄の着物きたマツケンさん登場ですからね、「ひゃー!!!!」ですよ。むちゃくちゃカッコいい。
それに対して淀殿は特殊効果なしで出てきたのもよかった。ここの浅野さんの「待ちくたびれたわ!」やカーテンコールの宗矩が持つ金色の布が大多数の理解できるメタ的ジョークとして成り立つのがほんと感動的。「みんなが知ってる名優」であることの凄さ。



柳生宗矩vs柳生十兵衛

私はこのシーンを先程の淀殿vsお品さんのシーンと対になるものとして見ていたんですけど、この両方に甚八さんがひそかに立ち会っているという構成がなんだかとても好きでして……甚八さん、真田十勇士ではどういう立ち位置だったのかなあ。っていうか何、いま調べたら村井さん真田十勇士甚八だけじゃなくて秀頼もやってたの!?!!あああああーーー!そうなんだーーーーあーーーあーーーーー。あのシーンやあのシーン、色々見方に層が出来てきますねうわー。知らなかったー。知っとけばよかったー。


話を本題に戻して、最近マンガ『ワールドトリガー』を一気読みしたのですけど。
強敵のお爺さんを前にしてあるキャラクターがこう言うんですよ。

親父に鍛えられた6年間
親父が死んでからの3年間
その全部をあわせても
この爺さんの厚み・・には勝てない


それなーーーー!
柳生宗矩のあの厚み!!!絶対に勝てない!!!!見ればわかる!!!!
生身の人間からそういうマンガみたいな年輪殺気を感じるってそうそうできない経験で、もはやこのシーンだけでも舞台を観に行った甲斐がありました。
私のような若手俳優さんのファンが松平健さんの殺陣を肉眼で拝見して「カッコイイ」と思えるこの空間、
そして逆に若手俳優さんたちの殺陣を見て「あらいいじゃない」と松平健さんのファンの方が思ってくださるかもしれないこの空間、
なんて贅沢な異文化交流なんでしょう。
感謝しかありません。



● 柳生又十郎

出てきた時からずっと(なんか「チェブラーシカ」に似てるな……)
と思ってました。
帰ってきて画像検索したらそんなに似てなかった。


私は又十郎を演じていた木村達成さんのファンなのですが、今回はなんだか孫の学芸会を見守る祖母みたいな気持ちで見てしまいました。「あの子、うちの孫なんです!」みたいな。上川隆也さんの弟だなんて大役を立派に務め上げて……はじめての殺陣や所作も頑張ってて……上川さんと松平さんと木村さんの3人だけでお芝居するシーンもあって…………ウッ。
いつも思うんですけど、木村さんは漫画原作ものだとクールな役どころを演じることが多いのに(そしてそれがめちゃくちゃ板についているのに)、
そうでないと途端に 一に愛嬌、二に気合い、三四がなくて五に愛嬌テヘッ みたいな感じになるのすごく良いと思います。好きです。


ものすごい個人的には、十兵衛の言う「又十郎の剣は活人剣」があまりピンときていなくて、「小栗さんは!? 小栗さんのことはどうなるの!?」という気持ちが拭えないですね……
小栗さんが死なばもろともという時に、又十郎、小栗さんを「斬れない」どころか一瞬目を逸らしますよね? その隙に小栗さんがやられてしまうじゃないですか、それが頭から離れなくて! 四郎だけを斬ろうとして間に合わなかったならまだしも、といまだに悶々としてます。その経験があるからこそのこれからに期待ということ…?
この活人剣という表現、最後まで斬ろうとしなかったけど斬ることで坊太郎を救った主税の剣のことだったらすごい納得できるなあとか。
あと逆に、坊太郎が主税に言った「俺とお前とでは背負っているものが違いすぎる」という言葉は主税より又十郎のほうが私の中で通りがいいなあと思ったりして、
すごい嫌なこと言うと、「松田さんの役が十兵衛の弟という設定で良かったのでは?」という考えが私の頭をよぎりました。


しかし!!!!
そんな私の邪念をはねのけてあまりある、
又十郎の「みんなの孫」力ですよ……!!!!


又十郎がプンスカ出てきて、
ギャンギャン怒鳴って、
フリーズしたまま息吸わなくて、
きっちり馬に蹴られて、
魔界衆にビビりまくって、
うっかり腰抜けそうになって、
そしてそんな彼の一挙手一投足に
会場が笑うじゃないですか。


肌で感じる「あらあら、まあまあ、ウフフ(仕方のない子ねェ)」の空気。
ウケてる……ウケてるよ……!!
明治座がウケてるよ……!!
明治座の……孫……!(個人の感想です)



最後に十兵衛が「進歩のないやつがもう一人来たぞ」って言って又十郎が再びギャンギャン怒鳴ってフリーズするところ、
「日常が戻ってきた」という物語の着地点としてかなり機能していたと思っていて。
もしこの物語の中で又十郎のエピソードや成長が色濃く描かれていたら、戦い後の「日常再び」の呑気さはあんまり出なかったのかもしれないなと思うんですよね。
これはすずちゃんにも言えることですけど、変わらないからこそ愛しいというか、なんかね、兄上の愛もそこはかとなく感じますよね……そうそう皆本さん可愛くてコメディの間合い上手でとても良かった……



木村さんが毎日作演出を手掛けているという馬のシーンの日替わりも、客層を踏まえたネタのチョイスが的確で良かったし、「スナックで昭和歌謡を歌うのが好き」という世代超越友好力がフルに活かされていたと思います。
はーーー木村さん明治座で輝いてたー!!!!
観に行ってよかったーーー!!



● 北条主税

今回、若い俳優さんたちがおそらくかなりご自身の得意なところで勝負できているのではないか、と随所随所で感じたのがとても印象に残っています。
長く見ているファンにとっては「またこういう感じの演技か」と思うような演技でも、初めて見た人にはむちゃくちゃ新鮮な驚きになりうるんですよね。(ということをジャニオタをやっていて学んだ)
大きな舞台、普段とはちがう客層の作品で、推しにスポットが当たって「はまる」瞬間ってほんと最高です。嬉しいですよね……
私、昔、好きなジャニーズのアイドルさんがいただいた役や作品を「おいしい」とか「おいしくない」とかしょうもない見方をしていた時があって、でも今その方が歩んでいる道を眺めてほんと思うのは、
いただいた仕事がどんなにおいしくないように見えても、どんなに見せ場がなくても、どんなにコケたと言われてても、一個一個真摯に取り組んでいる人はひとつひとつ信頼を得ていくんだな……ってことですね……シンライ、名声とはちがうけど、いつかひつよう、ぜったい。
といいつつ、この舞台の若手俳優さんたちはみんな見せ場があって、生き生きと輝いていたので、やっぱりそういうのも大事だよねと思った次第です。
そしてわかりやすい見せ場以外でも、小栗さんがカーテンコールでもずっとあの顔してるのとか、盛り上がる前に斬られちゃう荒木先生がめいっぱい全力なのとか、そういうのが素敵だなあと思いました。


で、個人的に、今回一番大きな驚きがあったのが松田凌さん演じる北条主税です。
主税は、上でも書きましたけど又十郎と逆に「物語、変化、成長」がかなり描かれていた人物だと思っているのですが、その一方で、キャラクターはそこまで濃くない。すごく真っ当で、デフォルメ的なキャラ作りもなく、真面目な青年といった印象でした。
それをね!!!「キャラが立ってない」と感じさせないってむちゃくちゃすごいことだと思うんですよね!!!!!!
下手したら埋もれると思うんですよ、vs坊太郎という、淀殿vsお品さん・宗矩vs十兵衛に並ぶエピソードを託されているだけに、余計に物語負けすると思うんですよ。しかも坊太郎が玉ちゃんの強烈なカワイイキャラで仕上がってるから、ふつう並んだら絶対薄いじゃないですか。
なのに負けてない!!!!!
真っ当な、背筋のすっと伸びた、松田さんの明瞭な存在感がまじですごい。
「これといった特徴のない」人物を立たせられるって舞台役者さんとしてものすごい強みですよね。舞台の主人公って、そういう在り方を求められることも少なくないと思うから。
松田さんは今回初めて拝見したので、ちょっと感動してしまいました。



柳生十兵衛

なんか、喋りが巧すぎる役者さんって浮くことあるじゃないですか。
だから村井さんとか山口さんがエンジン全開で巧いのに全然浮かないのすっごいなと思って。
というか、こんなに色んなタイプの役者さんがいるのに誰一人浮いてなくて、スケールが大きいのにごちゃごちゃ感もなく、まとまりがあるのすっごいなと思って。
そんなこと考えながら見てたら、十兵衛が四郎に「お品さんも淀殿もみんな俺ん中にいるぞ」的なこと言いだして、あーーこの舞台もそれだ!!!!って思いましたよね。
上川さんがみんなを受け止めるてるからみんな全力を出せるんだなあと。
堤さんの演出と、上川隆也さんという舞台の中でこんなにも様々な役者さんたちが乱反射している世界……
でっかいなあ…………!!!!
十兵衛という人間のスケールと上川さんの器の大きさに気づいて、至極圧倒されましたね…………
でも「戸田も千八もいるぞ」みたいなこと言いだしたから、「それは別に嬉しくないんじゃないかな」って思いました。四郎知らない人だし。四郎が人見知りしちゃう。ジョアンとペドロにしてあげて。
とか考えてて「あーーー!又十郎(と主税)にも語りかけてるのかこれーーー!!!!十兵衛どこまでも大きいーーーー!!!」て思いました。
十兵衛のからっぽって、包容力でもありつつ虚空でもあるっていう、そこから来てる十兵衛の優しさと残酷さがねーーー、体現されすぎててねーーー、そりゃ最後又十郎も泣いちゃうよねーーー、、、、
上川さん、見惚れました。





以上!
次回作『ロミオ&ジュリエット』、木村さんのベンヴォーリオは全然想像つかないので楽しみです。